スタッド・マチルダ・ド・カン。欧州に君臨するカン・アスレチック・クラブの本拠地である。この日のスタジアムには7万の観衆が押し寄せ、欧州王者にでもなるかのような大歓声がこだましていた。相変わらずこのスタジアムはよく声が響く。
声援の中心にいたのは帰ってきた英雄、メーメット・ショルである。今日はリーグカップ決勝戦。彼が率いたD1に上がったばかりのチームが最後に苦杯を舐めたのがこのカップ戦決勝の舞台だった。足を痛めていたショルはあの時エールの涙とともにピッチをあとにした。チームメートはショルにカップを掲げさせることができず涙を飲んだ。
しかし、ショルは再びカンのユニフォームを着て戻ってきた。すでにリーグ優勝を決め、WCS決勝進出も決めた強力なチームメートを得て帰ってきたのだ。
ショルにとっては3度目のウェスタンリーグD1カップ決勝の舞台である。カンで一度、ベティスでも一度決勝に進んだがともに決勝で敗れている。今度こそという思いは人一倍だろう。
試合前にキヴィはショルにこんなことを言った。
「D1にあがった年のあの決勝がこのチームの始まりだった。みんなあなたにこのリーグカップを捧げたいと思っている。だからWCSの決勝のことは忘れて全力で勝ちにいく。」
翌週にはWCS決勝を控えているにも関わらずルドルッティーはベストな布陣を組んできた。アンリ、キヴィ、ピリニャークの3トップにショル、ルーグッグス、ユーゴーの中盤、そしてカンデラ、ガラス、トゥドール、ラヴィスの4バックに守護神ライブニッツである。
決勝の相手は奇しくもあのときと同じバルセロナ。サポーターにとっても選手にとってもこの上ない最高のシチュエーションがそろった。試合前の最後の円陣でキヴィが叫ぶ!
「あの日の雪辱を!!」
怒号のような声援の中、試合開始からカンの3トップが牙を剥く。ピリニャーク、アンリがスピードをちらつかせながらバルサのDFにプレッシャーを与え、それを楽しむかのようにキヴィがボールをアタッキングゾーンの運ぶ。キヴィを中心にピリニャーク、アンリ、ショル、ルーグッグスが周りを囲みパスコースを作るカンの攻撃はどのチームにとっても脅威だった。5人のクラックを同時に相手することになるのだ。
その中で最初に仕掛けたのはショルだった。右サイドに大きく開いてパスコースを作る。するとそれに連動して猛スピードでピリニャークが内側に走りこむ。キヴィの選択はどちらでもなくシュートだった。キヴィとGKの間を斜めに横切るピリニャークの背中を掠めるシュートがゴール右隅に決まる。GKビクトール・バルデスはピリニャークの背中から飛んできたこのシュートに一歩も動けなかった。
幸先よく先制したカンはDFでもいいプレーを見せる。トゥドールはクライフェルトと壮絶な空中戦を繰り広げ、ラヴィスはサビオラとのスピード勝負を繰り広げる。バルサがやっとの思いで放ったシュートはことごとくGKライブニッツの手に収まった。
カンの攻撃陣はまったく攻撃の手を緩めない。それどころか攻撃は破壊力を増すばかりだ。前半をなんとか1−0で凌いだバルサだったが、疲労はいつもの倍以上だった。特にDFで一番体を張っていたプジョールの消耗は痛々しいほどだった。
後半開始の笛とともにまたカンの猛攻が再開される。かつてはバルサに勝つことができず苦しみ、その後はユヴェントスに勝つことができず苦しんだチームは今成熟のときを迎えているようだった。後半10分、左に流れたショルに合わせて4人のクラックが全員右によるとショルがついてきたDF2人をかわしてゴールを揺さぶる。旧スタジアムで足を引きずりながらベンチに下がっていくショルを見たサポーターたちは握りこぶしを突き上げ歓喜した。ショルは後半22分に新しい王様・キヴィに献上するような完璧なスルーパスを通して3点目をアシストするとスタンディング・オベーションに送られてピッチを退いた。スタンディング・オベーションと言っても観客がずっと総立ちだったのではあるが…。あのときの交代はエールが涙を浮かべながらの苦渋の決断だったが、今度は交代はルドルッティーがショルを讃える拍手を観客に期待してのものだった。スタンドにも感涙はあっても悔し涙はもうなかった。
ショルが退いたあとはキヴィとルーグッグスの若い2人が1点づつ決めて5−0で優勝を飾った。試合終了の瞬間、一番にベンチを飛び出したショルは涙と笑顔で顔をグシャグシャにしながらチームメートと抱き合った。初めて触れるリーグカップを掲げ、シャンパンを浴び、カルヴァドスを飲み干した。あの日の雪辱を果たしたのだ。
「ハットトリックしたのに今日のヒーローは俺じゃないみたいだな?」歓喜の輪の中でショルと肩を組みながらキヴィが悪戯っぽく笑う。
「今日ぐらいは主役にしてくれよ。このタイトルは持ってなかったんだからさ?」ショルが冗談っぽく笑う。それを見てキヴィはまた悪戯っぽく笑みを浮かべながら言う。
「来週はWCSの決勝。勝って3冠を取り戻す。そしたらまた泣けるね?」カン・アスレチック・クラブは翌週、WEFAチャンピオンシップ決勝でリヴァプールを下し3度目の3冠を達成した。このときもショルは泣いたらしい。
終わり
|