□ 第68回「その日のトリノは晴れだった」

 リーグ2節のボルドー戦を快勝したカン・アスレチック・クラブはWCSでブレーメンを5−0と破りその攻撃力をまざまざと見せ付けた。
 3節リヨン戦は当たっていたリュインドラに二度リードを奪われるもキヴィの2点で引き分けに持ち込み、ユーヴェ戦の直前の4節バルセローナ戦は控え組み中心のメンツながらも3−0で勝利し因縁のユーヴェ戦を迎える。
 トリノに乗り込んだカンだがユヴェントスに勝ったことがない。ここまで2分け2敗。その2敗はここトリノで喫したものだ。記憶に新しい昨季のここでの敗戦は雨の中だった。トリノに着いたその日も天気は雨だった。
 ルドルッティーは選手たちに退かないことを要求した。ボールをキープし、持ち味であるパスワークで切り崩し、シュートの雨を降らせてやれと。カンはここで勝ち点3をとればグループBでかなり優位に立てることになる。現在の順位は1位・ユーヴェ勝ち点6、2位・カン4、3位・ミラン1、4位・ブレーメン0である。
 試合当日のトリノは快晴だった。これが雨ならどんなに嫌だっただろうか…。チュラムがボルドーに移籍して守備力の低下が囁かれるユーヴェだが、それでもミランを1−0で破っているところはいつも通り手堅く、勝負強いと見るべきであろう。
 この日のカンはコンディションや軽い怪我などもあってメンバーをいじってきた。トリスタン、アンリ、キヴィを3トップ気味に配置し、その下にルーグッグス、ナカタを並べる形だ。ルドルッティーはイタリアでプレーした頃のナカタの“ユヴェントス・キラー”ぶりに期待して彼を先発に抜擢した。昨季終盤にチュルナトがブレイクしてポジションを確保できていないナカタにとってこの試合はアピールの大きなチャンスだった。同じポジションにショル、ルーグッグス、ピレス、チュルナトがおり試合に出られるのはこのうちの2人だけである。
 試合開始から前に出たのはアウェイのカン。キヴィがアンリとトリスタンを随えてユーヴェにプレッシャーをかける。キヴィの周りをアンリ、トリスタン、ナカタ、ルーグッグスが動きパスコースを作る。これは対戦相手にとって恐怖以外の何物でもないだろう。
 早いテンポでボール回り続けるボールを目と感覚で追いながらブッフォンはポジションを微調整し身構える。どこからシュートが飛び出すかわからないというGKにとってもっとも嫌な状況ではあるが、ジャンルイジ・ブッフォンという世界トップのGKにとってこれほど燃えるシュチュエーションもない。「俺が完封すれば負けない。」と簡単に口にする男である。
 カンのファーストシュートはやはり意外なところから飛んできた。左サイドの大外をオーバーラップしてきたラヴィスを見つけたキヴィはそこにパスを出すふりをして大きめのキックモーションをとりチョコンとボールを右に流した。そこにいつの間にか上がっていたDHのユーゴーが合わせて強烈で弾道の低いシュートを放つ。ボールはゴール右隅の際どいコースを突いたがブッフォンが指先で掻き出して得点にならなかった。
 ユーヴェもすぐに反撃を試みるがカンの高く設定されたDFラインとコンパクトな中盤のプレスに苦しみシュートチャンスが作れない。ラウールがディ・バイオとのコンビでDFラインのウラを狙うがラヴィスがきっちりとコースを切り、右足で打ったシュートはライブニッツを脅かすものではなかった。ユーヴェが前半このシュートしか決定機を作れなかったのに対し、カンは貴重な先制点を生み出した。
 前半30分、右サイドを破ったキヴィのクロスをトリスタンが競り合い、そのこぼれ球を左OHに起用されたルーグッグスが得意の左足で合わせてブッフォンの牙城を崩したのだ。キヴィがいなければチームの中心となっていてもおかしくないルーグッグスだが、彼はこのチームの一員であることに満足しているようだ。ゴールを決めるたびにユニフォームに縫い付けられたチーム・エンブレムにキスをするのはサポーターへのパフォーマンスではなく彼の本心からだ。
 ルーグッグスの先制点に勇気づけられたカンは後半に入っても積極的なサッカーを見せる。この日絶好調のキヴィが幾度もユーヴェの守備を引き裂き、ジージ・ブッフォンの守るゴールを脅かし続けた。ユーヴェは時折鋭いカウンターを見せたが、カンのDHユーゴーとDFラインが効果的な連携を見せこれを防いだ。
 1−0のスコアのまま後半30分を迎える頃、ルドルッティー監督はトリスタン、カンデラを下げてファン・デル・メイデ、イズマイロフを入れてさらに攻撃に出た。イタリアではお目にかかれないこの采配にデッレ・アルピの観客が驚嘆の声をあげる中、カンは終了間際のFKのチャンスからアンリが決めてトリノでの呪縛から解き放たれた。
 試合後、ブッフォンは苦笑いをしながらライブニッツのところに歩み寄ってきた。
「ついに負けたよ。ここで2点も取られるとはな…。」
「ルーグッグスのシュートにはやられたでしょ?練習でもあいつのシュートはわけわかんない角度から来るからね。」ニヤっと笑うライブニッツにもう一度苦笑いしたあとブッフォン。しかしすぐにいつもの自信に満ちた顔を見せる。
「ミランに(昨季の)決勝の借りを返したら今度はカンに貸しを返された。まぁ、このグループじゃ生き残れば勝ちだ。ユーヴェとカンが走る展開になれば一番楽だからな。6節でまた会おう。今度はノルマンディーで完封してやるよ!」

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