□ 第64回「トリノの雨に打たれて(前編)」

 2季連続3冠を達成したカン・アスレチック・クラブだったがオフは大きく動くことになった。まずは左SBのウルタードを外国人枠の影響で放出、フォックスの台頭で出番の減ったビディッチがレアル・マドリーへ、ディエゴ・トリスタンの加入で出番の減ったカベナギもウェスト・ハムへ、そして移籍志願をしていたファン・デル・ファールトがインテルへ去った。
 代わりに獲得した選手はパルマのナカタ、インテルのファン・デル・メイデ、アーセナルのシガン、モナコのエブラ、そしてD・キエフのネスマチニーである。
 今オフは大物の移籍が目立った。レアル・マドリーのベッカムがミランへ、トリスタン、ナカタがカン、ファン・デル・ファールトがインテル、そしてデル・ピエーロがベティスに移った。
 黄金期を迎えているカン・アスレチック・クラブは今季からテクニカル・ディレクターとしてジャン・エールを復帰させた。ルドレッティーとエールは長い付き合いで、戦術理論も似通っていた。
 開幕から順調に勝利を重ねたカンはリーグ、C.S、カップ戦を無敗で勝ち進んだ。シーズン中にレアル・マドリーで出場機会を失っていたガットゥーゾを獲得して中盤がさらに強くなったカンはリーグで19連勝するなどこのまま3季連続の3冠を達成するのではないかと思わせる強さを見せた。
 しかし、そんなカンの前にまたしてもイタリアの老貴婦人が立ち塞がった…。チャンピオンシップ準々決勝の相手が3シーズン前の準々決勝で惨敗を喫したユヴェントスに決まったのだ。
 「今こそあの時の雪辱を!!」
 新聞各紙がそう煽り立て、キヴィやピリニャーク、ライブニッツらも血が沸き立つような興奮を覚えていた。ライブニッツにとってはジャンルイジ・ブッフォンとの再会となる。
 第1戦をホーム、スタッド・マチルダ・ド・カンで戦うカンはベストなメンバーで試合に臨んだのに対し、ユーヴェは累積でエース・ラウールを欠くメンバーとなった。
 試合の主導権を握ったのはホームで6万の声援の後押しを受ける欧州王者・カンだった。自慢の中盤がユーヴェを押し込みアンリ、キヴィ、ピリニャークが幾度もゴールに迫る。しかし、イタリアらしい老獪なDFがゴールを許さない。
 カン優位に試合が進むが、ユーヴェは虎視眈々とカンの隙を窺っていた。前半31分、右サイドでピレスからボールを奪ったチュラムから中央のネドベドへパスが出るとうかつにラインを上げすぎていたカンDFのウラへスルーパス、それに反応したディ・バイオがゴール前に持ち込むと後方から追いついたガラスのファウルを誘いPKを獲得した。ガラスはこれで退場処分となりカンは残り時間と第2戦をDFリーダー抜きで戦わなくてはならなくなった。
 PKをディ・バイオがきっちり決めてユーヴェがリードすると流れは完全にユーヴェのものとなった。10人のカンは必死に1点差を守るしかなかった。前半をなんとかしのぎきったカンだったが、後半開始早々に今度はクリスタンバルが退場してしまう。これで9人となったカンはアンリ1人を残して守る。しかし、人数の差は埋められず、後半18分にはピレスが退場。これで8人となったカンはユーヴェの雨のようなシュートに必死に耐える。
 しかし、試合はこれで終わらなかった。調子の良くないキヴィに代えて送り込んだルーグッグスがチームを救った。後半41分、センターサークル付近で縦パスをカットすると得意のドリブルで仕掛けてDFを引き付けてアンリへ絶妙のスルーパスを通してみせたのだ。このパスをアンリが落ち着いて沈めホームでなんとか引き分けに持ち込むことに成功した。
 なんとか引き分けたものの選手たちは3シーズン前のトリノでの惨敗を思い出さずにはいられなかった。あのときもホームでは引き分けていたのだ…。

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