「優勝のかかる試合はキヴィから目を離すな!」これはカン・アスレチック・クラブのファン向けに配られるマガジンの見出しである。キヴィはたしかに大舞台や土壇場に強さを見せる。昨季の3冠達成も大事な局面で働いた。今季も…とファンが期待するのも無理はないだろう。
リーグ戦は残り4試合を残してカンが余裕の優勝を決めた。優勝の決まる試合でキヴィはしっかりゴールを決めて勝負強さを証明した。そしてボルドーとの対戦となったカップ戦ファイナルでも後半ロスタイムにアンリのゴールをお膳立てするパスを出すなど優勝に大きく貢献した。
そして2季連続3冠という大偉業への最後の関門、WEFAチャンピオンシップ決勝のため彼らは決勝の舞台であるウェールズのカーディフ、ミレニアム・スタジアムに乗り込んだ。
決勝の相手のバイエルン・ミュンヘンとはグループリーグでも対戦して2−0、0−0でカンの1勝1分けという数字が残っている。ただし、カーンが当たっていたアウェイでの試合は24本のシュートを放ちながら0−0に終わっている。
戦前の予想はやはりカン優位というのが圧倒的多数である。キヴィの調子がいいときのカンは“負ける気がしない”チームになる。いつでも点が奪えるような、そんな雰囲気があるのだ。
それがホームだとさらに厄介だ。点の入りそうな雰囲気を感じ取ったサポーターが盛り上がり大きな声援を送りそれがスタジアムに響き渡る。それに乗せられてさらにカンの選手が攻撃的なサッカーを展開する…。そんな相乗効果でカンは敵チームを追い込んでいくのだ。
ミレニアム・スタジアムには予想より多くのカン・サポーターが詰め掛けていた。海峡を渡ってウェールズまでやってきた彼らは2季連続3冠という大偉業の達成を信じて疑わない。本当ならかつて惨敗したユヴェントスに雪辱を果たしたかったカンの選手とサポーターだったが、そればかりはユーヴェが勝ち進まないことには実現しない。それにそんなことは大きな問題ではない「決勝でどこに勝ってももらえるカップは同じ物(ルドルッティー・談)」である。
決勝の舞台に上がった22人のトッププレーヤーたちの心理状態はさまざまだった。間違いなくカンの選手には余裕が感じられたし、バイエルンの選手はいつも以上に緊張感を帯びていた。
キックオフの笛を待つ実況ブース近くの席のスラングソンGMの横にはジャン・エール前監督の姿があった。ようやく病床を離れることができた名将は有能な後輩と教え子たちの成長を見るために2年ぶりにスタジアムを訪れたのだ。
試合開始とともにバイエルンが前に出た。ペースを握らせるとどこまでも攻め続けるようなカン相手では先手を取らねば勝ち目がないことは明白だったからだ。しかし、カンは前に出るバイエルンと正面からぶつかりガップリ四つに組み合った。打ち合いを望んだのである。
打ち合いなら負けないという自信がカンにはあった。相手が前掛りになればアンリやピリニャークを活かすスペースができる。彼ら活かせるパッサーがカンの中盤には大勢いる。試合は波状攻撃をかけるバイエルン対鋭いカウンターで喉元をえぐろうとするカンという構図になり、シュートが乱れ飛ぶスリリングな展開となった。
こういった試合展開でもっとも危険な選手がキヴィである。ファウルを誘ったり攻撃に緩急をつけたりと相手を翻弄するのがキヴィの得意分野である。そこにファンキーなドリブル野郎ことルーグッグスが絡むと手の付けられない状況になってしまうのだが…。
アンリを走らせるフリをしながら自らが突破を図るキヴィをDFが我慢できずファウルで倒すとゴール正面左寄り28mのFKをキヴィが自ら沈める。GKカーンが届かない左ポストをかすめる完璧な軌道のFKだった。実況をしていた日本のアナウンサーの「ゴラッソー!!」という叫びが聞こえないほどの大歓声がスタジアムに沸きあがる。エールも思わず立ち上がってガッツポーズを見せていた。
キヴィのFK技術はここ3シーズンで確実に向上している。昨季はFKによる得点はわずか2だったのだが今季はこれで6つめのゴールである。日頃からピリニャークやルーグッグスらとFK勝負をしている賜物だろうか…。
1−0とリードを許したバイエルンはいっそう前掛かりになるがカンの厚いDFの前にシュートを枠まで飛ばせない。枠に行ってもそこにはライブニッツが待ち構えていた。イライラの募るバイエルンに対し、キヴィが緩急で追い討ちをかける。カウンターで行けるときはダイレクトで長いパスをアンリやピリニャークの前に出し、遅攻をかけるときはピレスやファン・デル・ファールトとテクニカルなパス回しを見せてバイエルンを翻弄した。
平面で繰り返されるカンの中盤のパスワークの裏でDHのユーゴーが虎視眈々と前に飛び出すタイミングを窺っていた。キヴィ、ピレス、ファン・デル・ファールトにアンリを加えたテクニシャンたちに意識が集中していたバイエルンはパス回しを繰り返されている自陣右サイドと逆サイドに張り続けているピリニャークの間のスペースをケアできていなかった。
カンから見て右サイドのピリニャークとアイコンタクトでタイミングを合わせたユーゴーがゴール正面にぽっかりと空いたスペースに走りこむと、それに気づいたピレスが間髪入れずに早いボールを通す。いきなりのビッグチャンスに大歓声が上がるのを感じながらフリーでボールを受けたユーゴーが強烈な右足でカーンの脇を抜いた。これで2−0。欧州最硬を誇るカンの守備陣にとっては十分なリードである。
後半からルドルッティーはファン・デル・ファールトを下げてルーグッグスを投入してさらにバイエルンをイラつかせた。トリッキーな動きでボールを放さないルーグッグスをバイエルンはファウルで止めるしかなかったが、ゴール付近でのFKは非常に危険を伴った。
徐々にボールに触ることすらできなくなったバイエルンが敗戦を予感し始めた頃、カンのお家芸とでもいうべきCKがバイエルンの敗戦を決定付けた。ルーグッグスの右からのCKをクリスタンバルが叩き込んでカンの2季連続3冠が決まった。
試合後の選手たちは今季3度目の優勝の瞬間を楽しんだ。「何度経験してもいいものだよ!」とキヴィが言うようにサポーターも選手もスタッフも喜びを爆発させている。
翌日の新聞は号外を出してキヴィのFK、ユーゴーの素晴しいオーバーラップ、バイエルンを翻弄したルーグッグスのドリブル、クリスタンバルの止めの一撃などカンの勝利を讃えた。
優勝会見でルドルッティーはキヴィについて「マラドーナと比べられるレベルの選手だ。」と言い、現在のチームを「勝利と美しさを兼ね備えたチーム」と形容した。平均年齢が25歳にも満たないこの若いチームはどこまで栄華を極めるのか?来季も欧州最高のチームであることを証明できるのか?このカン・アスレチック・クラブを止めるクラブの出現を期待したいものである。
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