□ 第55回「白い巨人」

 オフシーズンにシェフチェンコを放出したカン・アスレチック・クラブはその後釜としてアーセナルのフランス人FW、ティエリー・アンリを獲得することに成功した。フランス人のアタッカーを求めていたエールはこれを喜んだし、カンのサポーターもこれに満足していた。しかし、マスコミを賑せていたのはレアル・マドリーの豪華絢爛な補強だった。スターティングに名を連ねるであろうメンバーを紹介すると、GKにカシージャス、DFがサムエル、F・カンナバロ、マルディーニ、スタム、MFがエメルソン、ベッカム、ジダン、リヴァウド(レコバ)、FWにオーウェンとロナウドである。スタメンの平均年俸が1243Ptsというまさに白い巨人である。
 スタメンの平均年俸が695Ptsの3冠チーム、カン・アスレチック・クラブはオフにアンリとシェフチェンコをトレードした以外に、フラムからCFスティーブ・マルレを獲得。そしてモーパッサンをレンタル、ロタンをマンチェスター・Uに放出した。レアル・マドリーはたしかに強敵になるだろうが、アンリがチームに溶け込み、キヴィが今季も活躍してくれれば新シーズンも優勝できるだろうとエール監督は考えていた。
 超大型補強を敢行したレアル・マドリーは監督にビセンテ・デル・ボスケを呼び戻してチームを作り上げる方針をとった。昨季のリーグでの不振でチャンピオンシップに出場できないため、今季の目標はチームの連携を作ることとリーグ優勝と設定された。
 ジャン・エール監督にはシーズンが終わる頃にレアル・マドリーから監督就任のオファーがあった。しかし、クビにならない限りはノルマンディーを離れる気はないとこれを断っていた。エールはスタメンに5人のユース出身選手がいる現在のチームを気に入っていたし、スラングソンGMが獲得してきたシェフチェンコの後釜、ティエリー・アンリにも満足していた。テクニックのある選手を好むエールの“カルヴァドス・フットボール”にアンリはうってつけの選手である。
 シーズン前恒例のアルプスでのキャンプは今年も活気に満ちていた。新加入のアンリはアーセナルでも同僚だったピレスの助けもありチームに溶け込んでいたし、陽気なマルレもすぐにチームの人気者になった。このチームはフランス人選手、またはフランスでの生活が長い選手が多いためコミュニケーションをとるのにさほどの苦労はしなかった。エールも自らの言葉で選手と直接話ができるので意見を交換したりすることが頻繁にできた。
 エールは左サイドに流れることを好むアンリの特徴を考え、キヴィを右寄りの1.5列に配置する4−3−2−1という形の布陣を試すことにした。カンデラ、クリスタンバル、ガラス、ラヴィスの4バックの前にユーゴーを置き、その脇でファン・デル・ファールトとピレスがバランスをとる。そしてアンリを最前列に置いたピリニャーク、キヴィのトライアングルが得点を狙うというフォーメーションである。
 数試合のプレ・シーズンマッチを戦いエールは今季もやれるという手応えをつかんでいた。しかし、予期しないことがカンを襲う。

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