シーズンが終わると同時にジャン・エールは海峡を渡りイングランドへ向かった。
「ロンドンへようこそ」エールを出迎えたのはアーセン・ベンゲルである。
ベンゲルとエールはカンに就任する直前からの知り合いである。エールはカンの監督に就任する前に知人の紹介でアーセナルの練習などを学ぶ機会を得た。その際に鋭い質問をぶつけてくるエールにベンゲルは監督としての才を感じた。その後はベンゲルとエールはフットボールを語るいい友人となっていた。エールがロンドンに来たのはベンゲルと会うためだったが、友人としてではなくカン・アスレチック・クラブの監督としてである。
このオフのカンはシェフチェンコの放出が決まっているものの、高額な移籍金がネックとなり買い手がつかない状態にあった。シェフチェンコの移籍金で新しいFWを獲得する予定だったカンの首脳陣は困惑した。エールの希望はパスワークに参加でき、点も獲れるFWである。
そこでリストにアーセナルのティエリー・アンリが浮かんだ。クラブ側がアーセナルに打診したところ好感触を得られたのでベンゲルと友人関係にあるエールが直接交渉に乗り出したのだ。
シェフチェンコはノーザン・リーグでのプレーに興味を持っていた。問題はアンリだ。ベンゲルを尊敬してやまない彼を口説き落とすことがエールの使命である。ベンゲルとの話し合いでアンリが納得すればトレードが成立するという段階まで交渉を進めたエールはアンリとの直接交渉に臨んだ。
アンリはフランス代表のチームメートであり、元アーセナルでもあるピレスからカンというチーム、そしてエールのことをよく聞いていたしカンが欧州チャンピオンシップで見せた“カルヴァドス・フットボール”も知っていた。「カンのあのパスワークは見事だ。あのパスの仕上げをするというのは非常におもしろいだろうね。それにカンにはキヴィがいる。彼はジダンの域に達する可能性すらある選手だ。彼と組んでフットボールをするのは楽しいだろうね。」アンリはカンでのプレーに前向きだった。「ピレスやカンデラもいいとこだって勧めてくれた。アーセナルではいくつかタイトルを獲ったしベンゲルにも恩は返した。イタリア、イングランドと戦ってきたしそろそろフランスに戻ってもいいだろう。」
アンリとシェフチェンコのトレードを成立させることに成功したエールはベンゲルとのフットボール談義を楽しみフランスへ戻った。同時にスラングソンがスティーブ・マルレの獲得を成功させていた。欧州制覇を果たしたカンはそのタイトルを守るべく進化を続ける
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