□ 第52回「ショル×キヴィ」

 カン市の郊外、カン・アスレチック・クラブの旧ホームスタジアムであるスタッド・ノルマンディー・メモリアルの近くにあるバーでカンのかつての英雄、メーメット・ショルと現在のカンの征服王、アンティ・キヴィが偶然再会した。“大人の隠れ家”をテーマにした落ち着いた雰囲気の店内はキヴィとショル、そしてキヴィの連れの女性、マスターの4人だけである。マスターは入り口にCLOSEの札を出してこの対面を見守った。
 カルヴァドスの注がれたグラスを傾けながらショルが祝いの言葉で話を切り出す。「まずは2冠おめでとう。リーグは私がいたころから数えて4連覇だね。」
「そうですね、あなたがいた時の優勝を僕はユースの仲間とスタンドで見ていました。あの時は次のシーズンにその場にいられるなんて想像もしていなかった…。」
「そんな若者が今じゃノルマンディーの“征服王”だな。私はリーグしか獲れなかった。君はカップも2度獲ったし、ヨーロッパを制覇するチャンスも掴んでいる。カンはいいチームだろう?」
笑顔を見せながらキヴィが答える。
「僕のアイドルだったメーメット・ショルに誉められるのはうれしい限りですよ。たしかにカンは素晴らしいチームだと感じています。厳しさと同時に選手への理解も持っている。エール監督も尊敬できる人物ですし…。」
「そうだね、私もエールにはいまだに尊敬の念を持っている。彼は有能な戦術家ではないが選手の心を掴むのが上手い。そして将来へのビジョンがある。ところで、アンドレイ(シェフチェンコ)は来季も残るのかい?」
ショルの問いにキヴィは困惑した表情を見せる。
「まだわかりません。僕はアンドレイに残ってほしい。でもここ2シーズンの彼の成績ではクラブが放出を考えるのも無理はないです。アンドレイが高額な選手である以上、結果を求められるのは当然ですしね…。」
やはりそうか、といった表情でショルが続ける。
「最近のアンドレイには迷いがあるプレーが多いからね。間近で見ている君ならわかっているだろう?アンドレイもここで4シーズン戦った。環境を変えるのも悪くないだろうな。」しばらくサッカーの話が続いた後、ショルの表情が緩んだ。
「ところで…、隣の彼女は大丈夫かい?」
「え…?」とキヴィが隣を見るとキヴィの連れの女性はアルコールの強いカルヴァドスに負けて眠りそうになっていた。「ちゃんと送ってやれよ。次はスタジアムで会おう。楽しみにしているよ。」そう言うとショルは席を立った。
 ショルが去ったあと、キヴィも女性を介抱しながら席を立った。「アンティ、送るのはいいがコンディションに響くようなことはするんじゃないぞ!」とカンのサポーターであるマスターが釘を刺す。するとキヴィは笑いながら答えた。「まだそんな仲じゃないよ!それよりベティス戦も応援に来てくれよ!きっと素晴らしい試合になるからね。」

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