万全な状態でチャンピオンシップ準決勝第2戦に臨みたかったカンだが、直前のリーグ戦でファン・デル・ファールトが負傷してしまった。これでファン・デル・ファールトはチャンピオンシップ、リーグカップ、リーグ終盤戦の大事な時期をスタンドで過ごさなくてはならない可能性も出てきた。軽傷だとの報告にエールは胸をなでおろしたが復帰は未定のままである。
エールはファン・デル・ファールトのポジションにユーゴーを上げ、DHにビディッチを起用することでチーム戦術の維持を図った。しかし、試合が始まると予想外の展開になってしまう。ベルナベウの雰囲気に飲まれたのか、前半19分にピリニャークがジダンへのタックルにファウルをとられて激怒、審判に詰め寄り退場処分となってしまったのだ。ピリニャークの若さが出てしまった場面だった。ちなみに彼はデビュー戦でも退場したという経歴がある…。
前半はそれでもカンがペースを握る。キヴィがバーを直撃する際どいループシュートを放つなどレアルのゴールに迫った。しかし、後半に入ると徐々に1人多いという状況がレアルに味方する。後半からエールはピレス、ビディッチ、ユーゴーを3ボランチぎみに配置することにしたが、それでもピリニャークがいない分、支配率で徐々にレアルに押し込まれる。
そして後半9分、ガラスとクリスタンバルの守る最後のラインとの駆け引きに勝ったロナウドがDFラインの背後に飛び出す。懸命に追うガラスが体をぶつけてクリスタンバルがカバーに入る時間を稼ごうとするが振り切られ、カバーが間に合わなかったクリスタンバルが思わずロナウドを倒してしまう。ホイッスルが吹かれる。PKは確実だがカードは?エールとカンの選手たちの脳裏に多くの退場者を出して惨敗した昨季の準決勝・ユーヴェ戦のことがよぎる…。
審判が手にしていたのはイエローカードだった。退場を覚悟していたクリスタンバルは安堵のため息を漏らす。「良かった…。助かった…。でもこれで累積2枚だ。決勝には出られない…。」そう思うと泣きたくなるクリスタンバルだった。
レアルに与えられたこのPKを蹴るのはイングランド代表キャプテン、デービッド・ベッカム。対するカンのGKライブニッツは全神経を集中させてそれに構える。「おそらくインサイドで蹴ってくる。得意のキックで…。」ライブニッツの読みは的中したが伸ばした手をかすめてボールはネットを揺らした。「ブッフォンなら今のに届いた…。」悔しさを滲ませながらもライブニッツの集中力は途切れることはなかった。むしろ逆境でこそこの若者は真価を発揮する。
直後の12分にキヴィの強行突破からシェフチェンコがゴールを狙うがボールはポストを直撃。17分にはベッカムが右サイドからのクロスに頭から飛び込むがライブニッツの絶妙のポジショニングがゴールを割らせない。それを境に試合は膠着状態に陥る。
この膠着を破ったのはエールの采配とカンの最大の武器であるCKだった。中盤の底でジダンを抑えているビディッチの運動量が30分過ぎから落ち始めると読んだエールは34分にフォックスを投入する。そのフォックスがピレスの蹴ったCKに頭で合わせてトータルで勝ち越す重要なゴールを決めたのだ。フォックスのファーストタッチでのゴールは10人で疲労の出始めるカンの選手に最後の集中力を与えた。すると39分、この日PKを与えてしまったクリスタンバルがその埋め合わせと出場できない決勝の分もと言わんばかりにCKのこぼれを押し込んでレアルに止めを刺す。
合計3−1としたカンはチーム史上初のチャンピオンシップ決勝へと足を進めた。試合終了の瞬間に前半で退場したピリニャークはベンチに下がっていたカンデラに連れられてフィールドで歓喜の輪を作る仲間の下に戻った。「おかげで苦労したぞ、この野郎!!」と中盤の選手たちの手荒い歓迎を受けたピリニャークだったが、みんなの顔が笑顔だったのにホッとしてそれを受けた。
ライブニッツはPKを決めたベッカムに握手を求めにいった。「素晴らしいPKでした。」あまり英語に明るくないライブニッツは知りうる単語を駆使してそれをベッカムに伝え、握手とユニフォーム交換に成功した。しかし、ベッカムの「決勝でも素晴らしいセーブをすることを期待しているよ。また最終節(リーグ)で会おう」という言葉はいまいち理解できなかったようである…。
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