2勝1分同士で迎えたWEFAチャンピオンシップ グループBの第4節、レアル・ソシエダ対カン・アスレチック・クラブ。この試合の結果がグループBの今後の展開に非常に大きな影響を与える一戦となることはわかりきったことだった。勝ったほうは、ほぼグループリーグ突破が確定し、負けたほうはもう一つの試合、チェルシー対ディナモ・キエフの結果しだいでは熾烈な2位争いに巻き込まれる。
ウェスタン・リーグでのスタートに失敗したソシエダにとってはチャンピオンシップで2位争いをすることは負担が大きすぎるのは明白であった。なんとしてもカンに勝って今後の試合を楽に戦う必要がある。一方のカンはシェフチェンコの不調で苦しい展開が続いていた。虎視眈々とポジションを狙うカベナギが好調をアピールしているため問題なくここまではきているがグループリーグ突破を早い段階で決めて調整に当てたいのがエールの本音である。
昨季からソシエダはカンの左SHのピリニャークにカモにされている感がある。ソシエダのSBは元バイエルンのサニョルが務めているが、昨季はピリニャークとラヴィスのコンビにキリキリ舞いにされていた。ドゥヌェックス監督はピリニャーク、ラヴィス、ファン・デル・ファールトの絡むカンの左サイドを封じることが勝利の鍵だと考え思案を廻らすがいい案は浮かばない。結局ソシエダはまたしてもピリニャークにカモにされてしまう…。
カンのジャン・エール監督は精神的に優位な状況にあった。ソシエダとは対戦成績を見ても分がいいし、ピリニャークは先週末のリーグ戦を休ませていたため体調万全の状態にある。ただし、試合当日になって誤算が出る。攻撃の軸であるキヴィが急な発熱で出場できなくなってしまったのだ。
エールはこの状況で奇策とでもいうべき策を執る。キヴィの位置にルーグッグスを起用したのだ。このチーム最年少の華奢な少年はまだ戦力と呼べるレベルではなかった。たしかに卓越したドリブルやテクニックを持ち合わせてはいるものの当たりに弱く、スタミナはこのチームでもっとも無いでしょう。しかし、エールはこの少年の閃きにこの試合をかけることにしたのだ。
かくして試合は始まった。カンの司令塔はキヴィがいないため右サイドのピレスと左寄りのポジションをとるCHのファン・デル・ファールトが分担した。そうはいっても普段からゲームを作るのはこの2人で最後のワンポイントをキヴィが仕上げるのがカンの形である。開始からこの2人は左サイドに張るピリニャークにボールを集めた。ソシエダがもっとも嫌がるこのスピードスターは何度も左サイドを疾走して際どいボールをゴール前に送ろうと試みる。
ソシエダはなんとかピリニャークに決定的な場面を作らせなかったが逆サイドのピレス、カンデラへの注意を怠ってしまう。このやっかいなフランス人コンビが手薄になった右サイドでゲームを作り出すとカンの攻撃に緩急とリズムが出始める。
前半21分についにピレスとカンデラが完璧なコンビネーションでソシエダの左サイドを崩す。ゴールラインのギリギリまで持ち込んだカンデラはフリーで余裕をもってクロスを上げる。それに反応したルーグッグスがニアで合わせて後ろのシェフチェンコへ浮き球を流した。
DFの間にうまく体を入れたシェフチェンコが頭でゴールを狙う。このシュートはベステルフェルトがかろうじて触るがこぼれたボールを左サイドから中に絞ってきていたピリニャークにねじ込まれ痛い先制パンチを喰らってしまう。
この時点でカンのベンチは勝利を確信していた。エールの表情には余裕さえ覗える。その余裕を覆そうとソシエダのドゥヌェックス監督は懸命に指示を送り続けるが、ピリニャークとラヴィスに執拗にサイドライン際を攻められ、ファン・デル・ファールトを経由してのピレス・カンデラへのサイドチェンジで慌てさせられるというじれったい展開を強いられる。
ボールをキープして常に先手を取る形で前半を終えたカンの選手たちはハーフタイムもご機嫌だった。ノルマンディーから持ってきたリンゴを齧りながら後半の作戦を聞く選手には焦りも不要な緊張も感じられず、練習でもしているかのようなリラックスムードが漂う。昨シーズンのチャンピオンシップ準々決勝でユヴェントスに敗れて以来、選手たちは急激に大人になった。エールはまだ10代の選手や20歳そこそこの選手ばかりのこのチームが大人のチームに成熟しつつあるのを感じていた。
ソシエダは中盤の選手を入れ替えて攻撃に出ようと試みるが、エールが後半から投入した“守備的MF”ビディッチが中盤でことごとくチャンスの芽を潰し中盤の主導権を渡さない。このビディッチは昨季の大きな発見だった。一時は放出リストにも載っていたこのセルビア・モンテネグロ出身のDHはもともとはCBであった。しかし、エールは彼の高さと守備力を中盤の底で活かすことにした。これが当たり今では司令塔潰しのスペシャリストとして重宝されている。
ソシエダはデ・ペドロをビディッチに抑えられて攻撃が単調になってしまう。そしてピリニャークに引っ張られて空いた中央のスペースをルーグッグスに突かれる。ルーグッグスの変幻自在なドリブルに幻惑されソシエダはズルズルとDFラインを下げざるを得ない。カンのボールポゼッションはソシエダのそれを大きく上回り残り時間を消化していく…。
守り続けてきたソシエダだったがカンのCKの場面で集中を切らした一瞬の隙を突かれる。ピレスの蹴った右からのCKにニアでルーグッグスが合わせ最後はクリスタンバルが押し込む。ソシエダのDFはセンターに飛び込んできた長身のビディッチに気をとられて小柄なルーグッグスを見失っていた。
致命的な2点目を奪われてもソシエダは最後まで戦った。しかし、最後までカンから主導権を奪うことはできなかった。キヴィという主役がいなくてもカンはリーグ王者でありこの試合の主役だった。最後まで余裕で戦況を見ていたエールは試合が終わると同じフランス人である敵将に持ってきたノルマンディーのリンゴをひとつ譲ってピッチから消えていった。
エールの背中を見送りながらドゥヌェックスが呟く。「赤々としたいいリンゴを育てたな、エール。これから旨いカルヴァドスに仕立てるんでしょ?これ以上酔わないようにしないとな。」
|