□ 第39回「そしてまたシーズンが始まる」

 スラングソンGMがチェックしたD3、D4にレンタル中の若手の中にいい選手がいたと連絡してきたためエールは急いでクラブハウスに戻った。スラングソンが呼び戻すべきだという選手はD4のギャンガンにレンタルされていたヘーネ・ルーグッグスというフランス人選手でまだ17歳ながら昨季はギャンガンのスーパーサブとしてチームのD3昇格に貢献していた。
 エールはこの選手のことを覚えていた。天才肌のFWでテクニシャンだった。昨季開幕前にトップに上げるか悩んだもののドリブルに固執しすぎる嫌いがあり昇格を見送っていた。しかし、ユースレベルではドリブルで抜けない相手はいないということで当たりが激しく展開の速いD4にレンタルすることになったのだ。
 ビデオとD4に派遣しているスカウトの話を合わせるとワンタッチではたいたりパスワークに参加したりとチームに溶け込んだプレーができるようになったようだ。染髪が好きでころころと頭の色が変わるそうだがギャンガンのファンはそれを楽しんでいたそうだから問題ないでしょう。
 若手が大好きなローラン会長はルーグッグスを呼び戻すことを快諾した。ローランは現在の若いチームを溺愛しておりほぼ毎試合スタンドに顔を見せる。8シーズン前にこのチームの会長になったローランとそれ以前からGMをしていたスラングソンは堅実経営でスレスレ残留というのが定番だったこのクラブを10年以内に強豪にする計画を立てた。この計画の中心は若手育成の充実と新スタジアムの建設だった。そのためローランは若い選手を育てることに定評のある元オセールのギー・ルー監督の下でコーチを務めたあとスダンの監督をしていたジャン・エールを呼び、ユースにもフランセを呼んだのだ。
 この計画は途中で問題もあったが結果的にはここまで順調に進んでいる。スポンサーの撤退などもあったが新スタジアムはカン市の北オルヌ川の近くに完成し今季からカン・アスレチック・クラブのホームスタジアムとなる。42000人収容の新スタジアムはスタッド・マチルダ・ド・カンと名づけられた。マチルダというのはカン市にある女子修道院を建てたことで有名なノルマンディー公国の征服王ウィリアムの妃の名をとったものである。
 新スタジアムでの新シーズンをほぼ昨季と同じメンバーで迎えるカンはアルプス近くでキャンプを開始していた。昨季は12得点と平凡な記録に終わったシェフチェンコ、貴重なゴールで存在感を示したカベナギ、そして新加入のルーグッグスが争うFW、そして多くのタレントがそろう中盤、リーグ最強のDF、そしてGKとカンの戦力は充実している。
 エールが心配していたモーパッサンはこのキャンプでも自分の居場所を見失いかけていた。中盤ならどこでもこなせるのだが、どのポジションでも3人目という評価になってしまう。ルーグッグスとフォックスの加入によってGKも含めて3人ベンチ外となるが、このままではモーパッサンのベンチ入りは難しいと言わざるを得ない。
 エールは数回の紅白戦と数試合の練習試合でモーパッサンの起用法を模索したが答えは出ず、このままでD3にレンタルで出される可能性すら出てきた。今季もスターティングに名を連ねることを確信させる出来の同期の選手たちを見てモーパッサンの焦りは増すばかりだった…。そしてまたシーズンが始まる

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