□ 第38回「実りのとき」

 『今日勝てばカン3連覇!!』新聞にそんな見出しが載る。残り3試合で2位との勝ち点差9。カンはいよいよ優勝の瞬間を迎える。それがホームでないのが心残りだが…。
 優勝のかかったセルタ・デ・ヴィゴとの試合を2−0で勝利してカンは今季2冠を達成した。先週のカップ戦優勝ほどの盛り上がりはなかったもののノルマンディーから駆けつけたカンのサポーターとともに3連覇を祝った。
 残り2試合を残した優勝だったが、カンはまだ今季リーグでは無敗をキープしている。16勝8分0敗で42得点3失点。この失点3というのがカンの強みである。常にクリスタンバルとガラスの壁がゴール前に立ちふさがる。昨季は不安定だったクリスタンバルだが今季は成長を見せDFをうまくまとめている。そして左SBのラヴィスも忘れてはいけない。エールが就任したシーズンからトップチームに定着したユース出身のラヴィスは今やフランス代表に呼ばれるほどになった。高い身体能力と守備力、大胆な攻め上がりはあのリリアン・テュラムと比べられるほどである。まだまだ経験は足りないがいずれは世界でも指折りのDFになりうる逸材である。
 今季からユースのフランセ監督の元を離れてトップチームに昇格した4人は順調な成長を見せている。ユーゴーはDHのポジションを、ピリニャークは右SH、ライブニッツは正GKのポジションを自らのものとしている。エールが心配しているのはモーパッサンである。ユーティリティーに優れた選手だが器用貧乏の感も否めず便利屋になってしまっている。他の3人のようにこれといった武器があればいいのだが…。
 残り2試合を不運なジャッジもあり2分けで終えたカンだがML史上初の無敗でのリーグ優勝を成し遂げた。ちなみに今季の負けはトリノで喫した1敗だけである。
 オフシーズン、カンはオーストラリア人DFのフォックスをフリーで獲得しただけで静観を保っていた。エールは現在のチーム状態を維持し、若手の成長を待つことにした。彼らが成長すれば欧州でも優勝できるはずだ。現在の中堅選手が下降線を辿り出す前に若手が一流になればいいのだが…。
 エールはバカンスをノルマンディーのオマハビーチ周辺で過ごしていた。ユース監督のフランセも一緒である。彼らは旧知の仲で現役時代からバカンスをともにすることが多かった。フランセは教え子であるキヴィやピリニャーク、ユーゴーらの活躍が嬉しくてしょうがないといった感じで酒が入るたびに彼らを自慢げに語る。エールはトップチームの監督としても一人の友人としてもフランセには感謝していた。彼ほど頼りになる男はいない。
 バカンスを十分堪能したエールはトップの監督としてフランセのいるユース・アカデミーを訪ねた。使えそうな選手を探しにきたのだ。「使えそうな選手はいるかい?」
 エールの問いにフランセは首を振る。「今すぐってのは無理だな。今年で17になる子達の中にはいい才能を持っている子もいるが、まだトップでは無理だ。もう1年ってとこだな。何人かD3やD4にレンタルしてるでしょ?あっちを見たほうがいいと思うぞ。バカンス中にスラングソンGMが分析してたはずだ。本当によく働く爺さんだよ。」
 フランセの言っていた今年17歳になるグループは確かに才能を感じさせる選手たちがいた。しかし、フランセの言うとおり今すぐトップに連れて行っても才能を萎ませてしまうだけでしょう。それにしてもここの優秀なユースシステムは大したものだ。地元の選手やユースから育て上げた選手はサポーターに愛されることが多い。カンのローラン会長はそれをよく理解している。だからユースシステムにも力を入れているのでしょう。「今季もあの中から発見があるかもな。」そう呟いてエールはユース・アカデミーをあとにした。

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