□ 33回「混戦」

 カップ戦準決勝のレアル・マドリー戦をホームで2−0で完勝したカンはのトーナメント1回戦を考慮し、シェフチェンコとラヴィスを温存して下位に低迷するヴァレンシアと対戦した。しかし、完全に引き分け狙いのヴァレンシアから点が奪えず終わってみれば0−0。相変わらず遅攻が苦手なカンである。
 この日、2位のディポルティボが勝ったためカンは2位に後退してしまう。依然として4チームが勝ち点3差以内という混戦が続いている。
 グループリーグでは組み合わせに恵まれたカンだが、トーナメントにそのくじ運は残っていなかったようだ。1回戦からサザン・リーグで首位を独走する名門・ユヴェントスと当たってしまったのだ。昨季のオフにラウールを獲得したユーヴェは突然再ブレークしたディ・バイオとラウールの2トップを軸にスタメン、ベンチともワールドクラスしかいない言ってみれば地球上最強のクラブである。
 エールは端から勝てると思っていなかった。0−0、0−0でPKか、運良くアウェイで1−1とか勝つとしたらそんなもんでしょうというのがエールの考えだ。
 そしてホームでの第1戦を迎えた。スタンドは立錐の余地もない1万9000人の満席。警備などのことも考慮すると1万8800くらいが本来は限度なのだが…。大ブーイングで“イタリアの貴婦人”を迎えるカンのサポーターはカンプ・ノウやベルナベウなどの大型スタジアムに負けない迫力だった。
 ベストメンバーで臨むカンのイレブンがピッチに現れると今度は大声援でこれを迎えた。もし勝てば、この小さなスタジアムの最後をWEFAチャンピオンシップ決勝という最高の舞台で締めくくれるのだ。
 しかし、エールはあくまで冷静だった。今日はリンゴすら齧っていない。ラインを上げすぎずホームでは無失点ならよしと選手には伝えていた。試合はエールのプラン通りに進んだ。大きなピンチもあったものの0−0で前半を終える。カンもピレスが惜しいシュートを放ったりと展開は劣勢ではない。シュートわずか2本づつというデータが両チームの守備の強さを物語る。
 後半からエールはラインを上げてボールをキープするサッカーに切り替える。リスクは冒さずユーヴェにボールを触らせないという策である。この策が当たる。テクニシャンの多いカンの中盤はボールを回し続け隙あらばミドルで狙うという展開を続けた。ユーヴェが焦れて陣形を崩せばすかさずシェフチェンコが動き出すといった具合にユーヴェを自陣に閉じ込める。
 結局試合はエールの希望通り0−0で終了した。昨季はホームで先勝しながらアウェイで逆転された。エールはその教訓を忘れてはいない。「今回は勝てなくてもいいんだ。」そういう心の余裕が選手にもエールにもあった。
 翌週は最下位マルセイユと対戦、その後はトリノでユーヴェとの第2戦、そしてアウェイでディポルティーボ、ホームでソシエダ、アウェイでバルサ、アウェイでレアル・マドリーとのカップ戦準決勝第2戦と続くハードなスケジュールが続く。
 控え組み中心で戦ったマルセイユ戦をチュルナトの2ゴール1アシストの活躍で快勝したカンはユーヴェとの決戦のためトリノに旅立った。

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