□ 第32回「負けない、また引き分け」

 ベティスのホームで行われたベティ対カンの試合は1−1の引き分けに終わった。前半はカンが優位に立っていた。12分、22分、30分と決定機を作り出したが、ラインを上げないベティスを崩しきれない。ベティスはショルの個人技からのシュートとアスンソンの機転を利かせたループシュートがカンのゴールを襲ったがわずかに枠を外れる。前半はこの日DHに起用されたビディッチがよくショルを抑えていた。しかし、このビディッチがゲームを左右してしまう。
 後半から攻撃に転じようとしたホームのベティスだったが、その上がったラインをシェフチェンコが単独突破する。後半14分、ゴール正面34Mあたりでボールを受けたシェフチェンコは素早いステップでファニートを抜き去り飛び出すプラッツの脇を抜ける落ち着いたシュートで先制点を決めて見せる。
 この失点でより前に出ざるを得なくなったベティスはデニウソン、ウィルトールのサイドアタックに活路を見出そうとする。そしてこの策がすぐに当たる。
 先制点からわずか4分後、イズマイロフからボールを奪ったアスンソンからショルを経由して左に開いたデニウソンへ。イズマイロフが上がって開いたスペースを埋めていたビディッチがデニウソンとマッチアップする。その間にラインを一度下げようとしたカンDFだったが、ビディッチがフォローに来たカンデラの指示を聞かずに簡単に飛び込んでデニウソンをフリーにしてクロスを上げられてしまう。下がりきっていなかったDFラインの間をアルフォンソが抜け出して技ありのループでGKライブニッツの頭上を抜いて動転となってしまった。その後は流れがベティスに傾いたがカンはなんとかしのいでやっとの思いでドローに持ち込んだ。
エールは苦虫を潰したような顔でピッチを去った。
 この引き分けで混戦のウェスタン・リーグはさらに混沌としてきた。カンは首位を守ったが勝ち点3以内に4チームがひしめく混戦である。そして次節は勝ち点差5の5位アトレティコ。もしも負けることになるとリーグはさらに混戦となる。
 しかし、エールはこの試合もビディッチをDHで起用した。これはビディッチにとっては最後のチャンスに他ならない。ここでまた失敗すれば来季はここにいられないでしょう。このチャンスをビディッチは必死のディフェンスでものにする。精力的に走り回りアトレティコの攻撃の目を摘んでゆく。
 このビディッチの守備の好影響でこの日初のスタメン入りを果たしたCHモーパッサンが積極的に前に出る。この日の先制点はシェフチェンコのポストプレーに反応して飛び出していったモーパッサンによるものだ。
 その後、得意のCKからクリスタンバルが2発決めて3−0で5位アトレティコを一蹴した。これでアトレティコとの勝ち点差は8となりさらなる混戦になることは避けられた。
 カンは15節を終えた段階で未だ無敗の8勝7分。リーグ3位の22得点とリーグ1位の失点わずか3。今季もやはりこの堅守がチームを支えている。「カンは勝てないまでも負けないチーム」とマスコミは評している。エールとしては攻撃的に戦っているつもりなのだが守備力の目立つチームである。
「カルヴァドス(ノルマンディー名産のリンゴを使った蒸留酒)のようなサッカーがしたいんだがな…。」とエールは時折リンゴを齧りながらぼやく。このリンゴを齧る姿は有名で、エールのことを“リンゴの魔法使い”とファンは呼んでいるがスラングソンGMは別の心配をしていた「リンゴが獲れない時期はどうするんでしょうか…。」と

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