□ 第30回「ショル再び」

 カン・アスレチック・クラブのホーム、スタッド・ノルマンディー・メモリアルにとって最後となるシーズンが始まる。収容人数1万9000人のこのスタジアムはその歴史の大半を弱小クラブのホームとして過ごしてきた。それが今ではヨーロッパで戦う強豪クラブのホームである。

 ショル対キヴィという新旧対決が話題となったこともあり収容スレスレの1万8350人がスタンドを埋め尽くした。スタンドには「おかえりショル」の文字もあり和やかなムードが流れていた。

 ロッカールームではエールがリンゴを齧りながら作戦の確認をしていた。ショルを経由して展開してくるようであればスフォルツァとファン・デル・ファールトを中心に激しいプレッシングをかけてカウンターでペースを掴む。ベティスのDFはそんなに強力ではなく、スピードの脆い。手数をかけずに攻めたてれば勝機は十分あるでしょうというのがエールの読みであった。

 ベティスはショルがいた頃のカンによく似たチームである。ショルを1トップの後ろに置き、突破力のあるデニウソン、ウィルトールがサイドを駆け上がりドブレ・ピボーテが後ろを固める。中盤でしっかりゲームを作るタイプの似たようなチームなだけにおそらく中盤を支配するよりも奪ってから早い方が試合を優位に進めることになるでしょう。

 試合は中盤での激しい攻防で幕を開けた。ショルとキヴィが徹底マークを受けながらも攻撃をリードする姿にスタンドは大いに沸いた。先にチャンスを作ったのはショルだった。22分、センターサークル付近でボールを受けるとスフォルツァとカンデラをひきつけて左サイドからフォローに来たデニウソンとワン・ツーで中盤の密集を抜け出すと一気にP.A.付近までドリブルで持ち込む。最後はクリスタンバルをかわしてシュートまでいったが左サイドから俊足を飛ばしてカバーに入ったラヴィスがスライディングでコースを切り枠にいかせなかった。

 ショルのプレーを見てキヴィもやりかえす。P.A.の正面でスフォルツァからボールを受けると中央突破で3人を抜き去りシュートを試みる。しかし、GKプラッツがタイミングよく前に出てシュートを打たせなかった。

 前半は結局0−0で終わったがスタンドの熱は上がる一方だった。試合前の和やかムードが嘘のようである。エールはまたリンゴを齧りながら後半の策を練っていた。3日後にはC.S.のディナモ・キエフ戦があることを考えるとシェバをフルタイム使うのはマズイ。昨季は不調をかこっていたカベナギにもチャンスを与えたい。それにはなんとか先制点がほしい。エールはキヴィに支持を与えた。おとりになってイズマイロフが中に切れ込むスペースを作れというものだ。ベティスDFはイズマイロフのスピードについていけておらず、エールはここにゴールの匂いを感じていたのだ。

 エールの思惑は見事に外れた。ベティスはDFラインを下げてカウンター狙いに出たのである。これによって試合はカンがボールを回しベティスが守るという展開になった。こうなると遅攻の苦手なカンは手詰まりになってしまう。結局開幕戦は0−0の引き分けに終わってしまった。

 試合後にキヴィはショルとユニフォームを交換してもらうことに成功した。そして「さすがは僕の後継者と言われるだけはあるな。」という褒め言葉を得た。キヴィがそのことをカンデラに自慢しに行ったのは言うまでもない(笑)

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