□ 第27回「希望から絶望へ」

 その日のスタッド・ノルマンディーはWEFAチャンピオンシップ決勝トーナメント1回戦、カン・アスレチック・クラブ対ヘルタ・ベルリンの第1戦が行われていた。カンはベストメンバーをそろえてこの試合に臨んだ。ホームでの失点は危険だが、第1戦でアドバンテージを握らないと選手のモチベーションが心配になる。結局エールはいつも通り戦うことを選択した。もともと守備の堅いカンである。

 試合は一進一退の展開だったが、地元の大声援のあるカンが徐々にゴールに近づく。特にシェフチェンコが物凄い勢いでゴールを狙う。来季もカンに残ると誓ったシェフチェンコはエール監督とサポーターに希望を与えるべく奮闘する。それに刺激されて若いキヴィ、イズマイロフも積極的にゴールを目指した。

 前線で奮闘するシェフチェンコを信じて最終ラインは度重なるヘルタの攻撃を体を張って守る。ヘルタはアウェイにもかかわらず積極果敢に前に出た。それほどカンのような失点の少ないチーム相手にはアウェイゴールは重要な意味を持つ。

 試合は0−0のまま後半に入った。展開はほぼ互角で何点か入ってもおかしくない内容だったが、両チームとも守備陣がよく踏ん張っていた。後半もゴールは決まらず引き分け濃厚になってきた86分、ついにシェフチェンコがヘルタDFをこじ開ける。

 エルゲラが中盤でボールを奪うのを見たキヴィがマークを外してそのボールを受け取る。そして間髪いれずにシェフチェンコにパスを出す。展開が早かったためDFと1対1になれたシェフチェンコは得意のステップでシュートコースを作り出し強烈な1発をヘルタに見舞った。

 このゴールで第1戦での勝利をモノにしたカンだったが、1点のリードではDFが踏ん張りきれなかった。ベルリンでの第2戦は一方的なヘルタペースとなった。守備陣は集中力を欠き再三クレスポに決定機を与えてしまう。

 前線までボールが回らず、1トップのシェフチェンコは度々孤立した。キヴィは中盤での厳しいチェックをかいくぐりなんとかシェフチェンコにつなげようとしたがヘルタのニコ・コバチの密着マークに手こずり決定的なパスが出せない。

 そしてついにヘルタにトータルで同点となる先制点が転がりこむ。クレスポがクリスタンバルのマークをかわしてシュート、ファン・デル・サールが横っ飛び一番弾き出すがそのボールをクリスタンバルがクリアミスしあろうことか自陣ゴールに入れてしまったのだ。

 これで集中が切れてしまったのかここまでクリスタンバルの分もフォローしていたトゥドールがサイドに簡単に釣り出され開いたスペースを再びクレスポに突かれる。クリスタンバルが簡単に抜かれてGKと1対1になりかけたところでファン・デル・ファールトが捨て身のタックルをしかけてなんとか止めたが判定はファウルでレッド・カード。さらにFKをメンディエタに決められトータル1−2と逆転されてしまった。

 ここからカンは形振り構わぬ猛攻に出るが集中の切れた選手が多くシェフチェンコとキヴィの中央突破以外は決定機を作れない。終了間際にキヴィが無理な体勢からポストをかすめるシュートを2本放つが枠内には飛ばない。そして無情にも終了の笛がなり大喜びするヘルタ選手の横でカンの選手たちは力尽きた。

 エールは精一杯胸を張って選手一人一人を抱き起こしながらグラウンドを1周した。最後のシュートを放ったキヴィはその場で泣き崩れていたがシェフチェンコに抱え起こされてグラウンドを去った。
 「またここまで戻ってこよう。そして勝とう。」というシェフチェンコの言葉を聞きながら。

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