□ 第24回「後継者〜模索〜」
 バルセロナに史上初めて勝利したカンのサポーターはこの勝利の立役者となったファン・デル・ファールトをショルの後継者と認め大いに盛り上がった。しかし、エールはファン・デル・ファールトをトップ下で起用し続けるよりも1つ下げたCHで起用することを考えていた。

 カン・アスレチック・クラブはML参加が決まり、エールが監督に就任したときからユースシステムの強化を進めてきた。そして、そのユースからチームの顔となるショルの後継者を育てたいとエールは考えていた。そして、その大役を果たせるかもしれない金の卵をエールはすでに見つけていたのだ。エールは2年前、ユース監督のフランセにその選手がトップで使えるような選手になったらいつでも昇格させてくれと頼んであった。そしてバルサ戦の翌朝、フランセ監督からついに昇格させるという電話が入ったのだ。

 その日の夕方、ついにその選手がトップチームと合流するためやってきた。ユースからやってきたのはアンティ・キヴィという19歳の若者だった。背番号36のユニフォームを持って出迎えてくれたエール監督にキヴィは自分への期待を感じた。2年前からエールが自分に注目していたことなど何も知らなかったキヴィはバルセロナ戦をユースの寮で仲間と見ているときにフランセ監督に呼ばれ、明後日からトップへ行けと言われたのである。

 当分はベンチ入りを目指して頑張ろうと思っていたキヴィだが、エールはそうは考えていなかった。なんと次節のアトレティコ戦でキヴィをいきなりトップ下のポジションで先発させたのである。エールはシェフチェンコの1トップの下にキヴィ、その下にイズマイロフ、ファン・デル・ファールト、エルゲラ、ロベールを置くという攻撃的な布陣を組んだのだ。

 チームの有望な若手もしっかりチェックしているカンの熱狂的なサポーターはもちろんキヴィのことを知っていたし、彼がトップチーム昇格を果たしたことも知っていたがまさか強豪・アトレティコ戦で先発してくるとは思っていなかった。そのため先発選手のコールに彼の名があったときは場内が騒然となった。試合が始まると場内はさらに騒然となった。19歳のユースから上がったばかりの選手がリーグ・チャンピオンであるカンの中盤を仕切ってみせたのだ。

 中盤とFWのパイプになるカンのトップ下はパスセンス、突破力、そして決定力を求められる難しいポジションである。その難しいポジションを今日がデビュー戦という若者がこなしているのである。観客は36番をつけたキヴィに視線を奪われた。ロベールやファン・デル・ファールトとスムーズなパス交換をし、シェフチェンコに際どいパスを送り、自らもドリブルで突破を試みる。そのプレー全てが目の肥えたカンのサポーターを唸らせ、拍手を呼んだ。そしてこの日のハイライトとなる先制点が生まれた。

 センターサークル付近でボールを受けたファン・デル・ファールトからのパスをキヴィがマークを背負いながら受けると機敏なステップでマークを外してDFのウラを狙うシェフチェンコへ速いパス。

 シェフチェンコがそれを持ち込みP.A.内まで持ち込むがDFにシュートコースを切られてしまう。そこにフリーでキヴィがゴール前に入ってきた。シェフチェンコがキヴィに浮き球で折り返す。パスはキヴィに通ったがGKフレイがタイミングよく飛び出し、カバーにきたDFにも左右から挟まれほとんどコースは無くなっていた。しかし、キヴィにははっきりとシュートコースが見えていた。

 GKフレイが身構え左右からDFがボールを奪おうとした瞬間、ボールがふわっとフレイの顔の横を通っていった。ボールはポストをかすめてゴールネットにからまった。打ったキヴィはボールを奪おうとしたDFと接触して倒れたがすぐに駆け寄ってきたシェフチェンコに抱え起こされチームメートから手荒な祝福を受けた。DFと接触する瞬間にボールが飛んできてどのタイミングで打たれたのかがわからなかったフレイはゴールネットにからまったボールを見つめながら呟いた。「エールめ、またとんでもないのを隠し持ってたもんだ。」

 そのエールもベンチで唖然としていた。「自分が選んだキヴィだがまさかここまでの才能とは…。これは本当にショルを超える選手になるかもな…。」そんなことを思うエールであった。
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