□ 第16回「混乱と歓喜」
『ショルが来季はドイツへ!!』

 そんな見出しが新聞各紙に躍った。前の晩にカン・アスレチック・クラブのWEFAチャンピオンシップ出場権獲得を祝う杯をあげたカン市民は眠い目をこすりながら目にしたこの記事に「まだ夢の中にいるんだ!」と自分に言い聞かせたという。

 メーメット・ショルはまだD2にいた昨季の開幕直後にチームにやってきた。リーグ随一のテクニックと闘争心でチームをD1に押し上げ、今季もキャプテンとしてチームを首位に導いた最大の功労者である。

 カン市民の中には彼を神のように崇拝する者すらいるという。そのショルが今季限りでフランスを去るというのだ。 たしかに彼のキャリアはもう終盤に入っており、最後は祖国であるドイツで過ごしたいという考えもわかる。しかし彼はまだ衰えを見せず、今季も素晴らしいパフォーマンスを見せていた。カン市民はC.S.でショルがヨーロッパの強豪を手玉にとるのを見たかったのだ。

 このニュースが流れたことはカン・アスレチック・クラブに衝撃を与えた。ショルが来季ドイツへ帰ることはチームの上層とショルと家族、代理人しか知らず、リーグ優勝またはリーグ終了まで秘密にすることを決めていたからだ。

 ショルがドイツに帰ってキャリアの最後を過ごしたいとチームに伝えたのは17節のバルセロナ戦のあとだった。エール監督は残留してくれるよう強く慰留したが、ショルの決意は固く今季限りで退団することが決まった。

 エールは首脳陣を集めて今後のことを話し合った。「ショルが移籍するとわかれば当然マスコミは騒ぐ。優勝戦線にいるチームにとってそれは得策ではない。選手にも余計なプレッシャーがかかる。」そう考えたチームはショルの移籍については口外しないことを決めた。ショルもそれを了解した。

 情報漏れはチーム内に不信感を生んだ。スラングソンGMは秘密裏に情報漏洩の犯人探しに動きエールには現場指揮だけに集中するよう告げた。 選手たちはショルから移籍することが事実であると告げられて動揺したが、ショルに優勝の手土産を、という気持ちで結束を強めた。彼らはD1での厳しい戦いを通してたくましくなっていた。ここまで若手中心のチームを引っ張り続けてきたショルは彼らの成長が嬉しかった。

 加熱する報道に気をとられることもなく、チームは黙々と勝利を奪いにいった。ベティス、スポルティングを連破したカンはついに昇格1年目での優勝まであと1勝と迫った。2位のバルセロナはカンに3−2で勝利したあとレアル・マドリーとのエル・クラシコを落として追い上げムードが萎んでしまい勝ち点差10と水をあけられていた。

 優勝をかけてホームにリヨンを向かえたカンは町中が沸きに沸き、スタジアムはもちろんのこと広場、バーにもサポーターが集結し優勝の瞬間を待った。

 試合開始からカンは両サイドのイズマイロフ、ロベールが積極果敢に仕掛けてリヨンDFを引っ張りスペースを作った。そのスペースをショルが抜群のゲームメイクで支配しエース・シェフチェンコにラストパスを送るチャンスをうかがう。リヨンはラインを下げて中盤を守備的にしてカンの攻撃をしのごうとするが密集を作ってもショルからボールを奪えず逆にバランスを崩していく…。

 必死に耐えてきたリヨンだが、後半2分についにシェフチェンコをフリーにしてしまう。またしてもショルにボールをキープされ4人で囲もうとしたところで2人をかわしながらショルの右足が光を放った。ショルに気をとられてマークがゆるくなったシェフチェンコはショルからのパスを受けるとスピードで最終ラインを引き裂きGKが1歩も動けないうちにゴールネットを揺さぶった。

 このゴールで意気消沈したリヨンはプレスが機能しなくなりショルに好き放題やられてしまう。28分には4人のDFを華麗なステップで交わしてGKと1対1になりGKを引き付けて得点王争いをしているシェフチェンコにパス。シェフチェンコが難なくゴールに流し込み2−0として優勝を決定づけた。

 終了間際に途中出場のカベナギがダメ押しの3点目を決めて3−0の快勝で優勝を決めた。優勝の瞬間選手は抱き合い絶叫し喜びを分かち合った。そしてショルを担いでグラウンドを1周してサポーターと喜びを分かち合い、今シーズンの応援に感謝を示した。

 エールは記者会見で「常々ヨーロッパに行くことが目標だと言ってきた。私はそれで満足だったが選手たちはより貪欲だった。この優勝は選手が最後まで貪欲だったから手に入れられたものだ。今週はまだカップ戦決勝も残っている。ここでバルサを叩いてリーグ戦で2敗した憂さを晴らしたいね。」と語り2冠獲得を宣言した。

 今季はバルサにホームで0−2、アウェイで2−3と負けているだけにカップ戦決勝で借りを返したいところだ。
PS2RC

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