□ 第21回「迫り来る闇」
ウェスタン・リーグ第21節。現在首位にいるルゴはホームにベティスを迎えていた。代表戦で失態を演じたグラシアと代表の右サイドの一番手であるホアキンの対決がクローズアップされるこの試合だが、ルゴの選手たちはそんなことより後ろから迫ってくるソシエダの方が気になっていた。同時刻、ソシエダはサンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリーと戦っていた。
ラウール・グラシアは先週のカップ戦準決勝以来、また目つきが変わっていた。しかし、その目は以前のような狂気すら感じる鋭いものではなく、ただ集中している。そんな目であった。
話は先週の水曜に行われたウェスタン・リーグ・カップ準決勝第2戦までさかのぼる。ヴァレンシアに逆転負けした後、意気消沈するグラシアとカルストロムを連れてグティはラ・コルーニャまで食事に来ていた。「いつまで湿気た顔してんだよ?」ガリシアの名物である海の幸に舌鼓を打ちながらグティは二人にワインを勧める。「キムもラウールもよくやったさ。」グティは心底そう思っていた。第1戦も彼らの活躍で勝利をものにした。第2戦で逆転されはしたもののラウールへのヴァレンシアの対策が早かった。それでも彼は1点を奪って最後まで戦った。
「グティさん?ですよね?」不意に後ろから声をかけられてグティは振り向いた。そこにいたのは知り合いのショーガールだった。マドリーにいた頃の友人である。TVの撮影で来ていたらしい。キョトンとしたグラシアとカルストロムに気づいてグティが彼らを紹介する。「あぁ、紹介するよ。うちのラウール・グラシアとキム・カルストロムだ。ラウール、キム彼女はジャンネ・セラデスだ。TVで見たことあるだろう?それと…連れは?」グティは会ったことのないジャンネの連れの女性の紹介を求めた。何度かTVで見た記憶はあるのだが名前が出てこない。「彼女はマリア・ペネロペよ。最近売り出し中の歌手よ。」
綺麗な女性が加わったことで場の雰囲気は一気に和んでいた。昇格1年目から首位争いを繰り広げるルゴは各地で話題をさらっていた。そのチームの若手ホープとしてラウール・グラシアは注目を集めていたが、あまりマスコミに露出しないため彼の素顔は知られていなかった。「へぇ、あんなに大胆にドリブルで仕掛けるのにシャイなのね?」ジャンネの質問に思わず赤面してしまうグラシアであった。「ドリブルしてるときのラウールは別人だからな。」グティもそう言って笑う。「でもユニフォーム着て無くても素敵な人ね?」マリアがいきなりそんなことを言い出したからグティとジャンネは驚いた。ジャンネはグティに小声で囁く。「彼女、思ったこと言っちゃうっていうか天然ボケなのよね…。」
その後、グラシアとペネロペが何をしゃべっていたのかはわからないがその日からグラシアはフットボールに集中できるようになっていた。そして、このベティス戦でも彼は素晴らしいプレーを披露する。グティやメンディエタがボールを持つとすぐに反応してスペースに動き出してボールを受け取る。そして得意のドリブルでベティスDFを切り裂く。15分にはラウトとのワン・ツーから強烈なミドルを放つなどルゴの攻撃をリードする。グラシア、グティ、メンディエタの構成する危険な中盤に引っ張られてベティスのサイドアタックはまったく威力を発揮しない。ホアキンにパスが入ってもファンフランがしっかりとケアして自由にさせない。
スタジアムが沸いたのは後半に入ってからだった。5分、グラシアがグティとサイドチェンジして左でボールを受ける。マッチアップがホアキンになったためスタジアムがドッと沸く。ルゴは瞬間的にアイソレーションをかけてペナルティー・エリア左にいるグラシアにサイドで勝負させるスペースを作り出した。グラシアはゆっくりとボールを足の裏でコントロールすると対峙するホアキンと目を合わせる。そして一拍置いて目線を左にずらす。その瞬間、体とボールは目線と逆の右に動き出す。一歩遅れてホアキンが右に抜こうとするグラシアを止めようと動き出したとき、グラシアは右にはいなかった。ホアキンが動き出したと同時か一瞬前に左に大きく切り返していたのだ。そしてフォローに来たタイスを抜き去るとラウトにパスを出す。ラウトが難なくそれをゴールに蹴りこみルゴに先制点が入った。
先制したあとも優位に試合を進めるルゴだったが後半21分、クラウディオ・サンティ監督はグラシアを引っ込めてしまう。布陣を守備的にして1点を守りにいったサンティの目論見は後半37分にホアキンの上げたクロスをパレルモが叩き込んだ瞬間に砕けちった。勝ち点2を失ったルゴにさらに嫌なニュースが届く。ソシエダがマドリーに3−2で競り勝ったのだ。これでサンティのチームは勝ち点で並ばれ、得失点差で首位の座を失った。リーグは残り5試合。試合後、グティはチームメートに結束を呼びかけた。ここで踏ん張らなければ優勝はおろかWEFAチャンピオンシップへの本選出場権を得られる2位もわからなくなってしまう。なんとしても首位争いに残らねばならないのだ。しかし、結束からの離反者はすぐに、それも意外なところから現れる。
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