□ 第19回「ブレーキ」
メスタージャで行われているスペイン対フィンランドの親善試合はキヴィの復活祭の様相を呈していた。「キヴィさん、こっち!」「キヴィ!!」フィールドはボールを持つキヴィへパスを要求する声でいっぱいだった。中央でボールを持ったキヴィがアルベルダとバレロンを振り切りボールを運ぶ。それはまるで5年前のカン・アスレチック・クラブを見ているようだった。
キヴィの突破を止めに行ったエルゲラだがファウル以外でキヴィを止めることは出来ずゴール前でFKを与えてしまう。そしてキヴィがゴールの右隅、ポストとバーの両方をかすめる完璧なキックでリードを2点に広げる。サエス監督は頭を抱える他無かった。そして彼の決断はキヴィにケアされてまったく役に立たないグラシアを柔軟なメンディエタに代えることだった。前半37分、グラシアはルゴの同僚であるメンディエタと交代でピッチを去った。
試合はその後、プジョールがキヴィにマンマークで付くことでフィンランドの攻撃をある程度阻むことに成功したスペインが2点を返すも終了間際にキヴィがプジョールを振り切りミドルシュートを突き刺して3−2としたフィンランドに白星がついた。スペインのコメンテーターはこの試合を振り返ってこんな言葉で中継を終わった。『征服王は死んでいなかった。』
試合翌日の新聞はキヴィへの驚きと何もできなかったグラシアがメインだった。『A代表には早すぎる』、『サエスは彼を潰しかねない』といった論調である。そんな中、ある新聞がキヴィが来季からアトレティコ・マドリーに来る可能性があることを報じたためスペインではキヴィが一躍話題の的になった。
一方のグラシアは失意のうちにガリシアに戻ってきた。あまりに苦々しい代表デビューだった。主要新聞各紙の平均評価は3.0と出場した選手の中で最低。ユーロ出場どころか次の親善試合への召集すら難しいと言えるだろう。
ルゴに帰ってきたグラシアはいつもの弱気な青年に戻っていた。練習でもファンフランに果敢に挑むこともなくパスを回す。「おいグラシア!かかってこんかい!?」ファンフランがいくらけしかけても向かってこない。そんなグラシアを見てサンティは20節のポルト戦でグラシアをベンチに座らせることにした。しかし、グラシアの代わりに右のウイングに入ったメンディエタが足首を痛めてしまい後半開始早々にピッチを離れると代わって入ったグラシアはまったく機能せずポルトに0−1で敗れてしまう。これで2位ソシエダとの勝ち点差は2。ルゴの選手たちは大きなプレッシャーにさらされるとこになってしまった。
ガリシアに戻ってきたルゴだが落ち着く暇も無く水曜にはホームでリーグカップの準決勝、ヴァレンシアとの第2戦を戦うことになっている。第1戦をアウェイで1−0と先勝してはいるが気の抜ける相手ではない。そしてこのリードはわずか開始4分で消えることになる。右SBに起用されたオーイェルをかわしたビセンテが上げたクロスをニアでアイマールが右足のアウトで合わせてゴヤの右を破ったのだ。あまりにも早かった同点弾にルゴは混乱した。日曜のポルト戦でメンディエタが負傷し、グラシアの調子も一向に上がらないためジャンナコプーロスをウイングに起用したサンティ監督だったが思うように展開できずヴァレンシアに押し込まれる一方であった。スタンドはグラシアを出せとサンティに野次り、ピッチでは選手同士がなんとか意思の疎通をとろうと大声を張り上げる。しかし、チャンスは作れない。
「俺によこせ!!」キャプテンマークを付けるグティがなんとか打開策を見出そうとボールを受けるがすぐに囲まれてしまう。右サイドにグラシアもメンディエタもいない状況ではルゴのサイドアタックは機能しない。ジャンナコプーロスは優秀なドリブラーではあったがこのチームにおいてはチャンスメーカーではないし、オーイェルはジャンナコプーロスがSBに入った時ほどオーバーラップするわけではない。チャンスを作るとしたらグティかピボーテに起用されたアルテタしかいない。しかし、グティが責任感に燃えるほど攻撃のリズムは悪くなりヴァレンシアの危険なカウンターにさらされた。
なんとか0−1(トータル1−1)で折り返したルゴだが立場は試合開始前とは逆転していた。あと1点取られるとルゴは非常に苦しい状態に陥る。サンティはここでカルストロムを右SHに入れてジャンナコプーロスをSBにすることで突破口を見出そうと試みた。しかし、これも上手くいかなかった。ヴァレンシアはラインを下げきったあと鋭いカウンターをしかけてくる。さらに後半10分にラウトが故障してしまったためサンティはグラシアを投入してカルストロムをFWに回すしかなかった。
第1戦ではグラシアにキリキリ舞いにされたアウレリオだったが、ヴァレンシアはしっかりと対応策を考えていた。グラシアのフェイントと抜きにいくタイミングをしっかりと研究していたのだ。「グラシア、頼むぞ!!」アルテタからパスを受けたグラシアは真っ先にパスコースを探すが出せるところは無い。「ラウール!抜け!抜け!!」左からグティの声が聞こえる中、グラシアはアウレリオに勝負をしかける。しかしアウレリオはグラシアの動きを読みきっていた。“ここでフェイント、切り返すフリをして…ここだ!”あっさりとボールを奪うと得意の左足でアイマールにパスを通す。左サイドでボールを受けたアイマールが素早くゴール前にクロスを入れるとオリベイラがあっさりと頭で合わせてトータル2−1と勝ち越す。「くそ!!なんてこった!!」ベンチを蹴り上げながら落胆するサンティを見てグラシアは今すぐ逃げ出したい気分だった…。
「おい、ラウール!」自分のところを起点にゴールを決められて落胆するグラシアにカルストロムが声をかけた。「キヴィ様にやられたくらいでいつまで落ち込んでんだよ!?勝てるわけないじゃん?相手は世界最高だった選手だよ?お前はいつから世界最高になったんだ!?」そこにグティがやってきてグラシアの胸ぐらを掴んで怒鳴った。「ラウール!いつまで寝てんだ!?仕事しろ!!」そしてグラシアを突き放すと吐き捨てるように言った。「あんまり期待を裏切るなよ…。」
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