□  第17回「グラシア覚醒」

 「いいか?開始20分で追いついて勝ち越すぞ?ラウール、お前は1人で右サイドを押さえろ。守備はジャンナコプーロスに任せる。DFは絶対にアイマールから目を離すな。すべて奴を経由するはずだ。2位のソシエダは前半2−0でリードしてる。負けるわけにはいかんぞ!いくぞ!!」「おう!!」
 後半のピッチに現れたルゴのイレブン。前半終了間際のゴールでヒートアップしたルゴのサポーターは大合唱でバレンシアにプレッシャーをかける。「ラウール!聞けよこの歓声!!全部さっきのゴールへの賞賛だぜ?」興奮して捲くし立てるカルストロムにグラシアは落ち着いた表情で答える。「まだまだ、こっからがハイライトさ。」
 後半開始と同時にルゴが猛チェックをかけてバレンシアからボールを奪う。メンディエタを経由してグラシアにボールが渡るとスタンドの温度が一気に上がる。「さあ、行くぜ」マーカーのアウレリオの間合いに入りながらグラシアがそうつぶやく。そして一気に加速する。食い下がるアウレリオを鋭い切り返しでかわすとペナルティー・エリア中に切れ込みペジェグリーノと1対1になる。2トップのポスチガとカルストロムが左によってDFを引きつけ、メンディエタとグティがグラシアの後ろでパスコースを確保してピボーテのゴメスとアルベルダを牽制する。広いフィールドのほんのわずかなスペースでペジェグリーノとグラシアが1対1で対峙する。抜けばゴールとボールの間にはGKカニサレスしかいない。味方が作ったこの一瞬のチャンス、グラシアは迷わずペジェグリーノを抜きにかかる。倒せばPKということも考えればペジェグリーノの不利は否めない。それをわかっているかのようにグラシアはストップ&ゴーでスピードを活かしてペジェグリーノの右を抜きに行く。ペジェグリーノが左足を伸ばして止めに来るタイミングを見計らって鋭く切り返すとバランスを失ったペジェグリーノが倒れる。完全にフリーになったと思われたグラシアだったが左足でシュートを打とうとした瞬間、メンディエタが後ろから叫ぶ「ラウール!!後ろ!!」
 左足を振り抜く瞬間にグティのマークを放棄して最終ラインまで戻ってきたアルベルダが鋭く、そして深いタックルをしかけてグラシアの左足ごとボールをかき出す。“PK?ホイッスルは?”一拍待ってもホイッスルはない。体勢を持ち直したペジェグリーノがアルベルダとグラシアの前に転がるボールを大きくクリアする。“しまった…”振り返ったメンディエタの後ろでそのボールをビセンテが拾いバレンシア得意のカウンターが発動する。ジャンナコプーロスがディレイをかけに行くがアイマールとのワン・ツーでかわされ一気にサイドを抜かれる。クロスを入れようとするビセンテにサラビアが追いつきスライディングでクロスを止めにいくが左サイドのテクニシャンであるビセンテは綺麗に切り返してそれをかわしGKゴヤをつり出す。そこにフリーで走りこんできたアイマールにマイナスのパスが出る。ゴヤが飛びついてパスをカットしようとするが届かない。しかし、ボールはアイマールに渡らずゴールラインを割った。アイマールがダイレクトでゴールに蹴りこもうとした瞬間、ゲームキャプテンのグティがボールに滑り込んでクリアしたのだ。「アイマールから目を離すなって言ったろ!!」大声で渇をいれるグティを遠くで見ながらニエトがニヤっと笑う。「それでいいんだ。」
 CKに備えて自陣に戻るグラシアにポスチガが声をかける「惜しかったな!グラシア…?」グラシアの目がいつもと違うのに気づいたポスチガは思わず息を呑む。それに気づいたメンディエタはニヤっと笑う。「お、バルサ戦と一緒だな。やっと本気かい?」
 アイマールの蹴ったCKをスベンソンがヘッドでクリアしこぼれ球をメンディエタが拾う。“誰が空いてる?右?”グラシアが真っ先に右サイドに走り出したのを確認してメンディエタが浮き球を送る。左斜め後ろからのスピードのあるパスを左足のアウトで完全にコントロールしたグラシアがそのままゴールに向かってドリブルで突き進む。アウレリオの捨て身のタックルをかわしてまたペナルティー・エリアに差し掛かる。立ちふさがるのはペジェグリーノである。アジャラはCKでゴール前まで上がっていたのでまだ戻りきれていないが逆にルゴの選手もまだゴール前に来ていない。二つまたぐフェイントを入れたあと左に切り返すフェイントを入れてグラシアがまたペジェグリーノの右を抜きに行く。“またここで切り返すのか?”一瞬迷ったペジェグリーノの右を一気に抜き飛び出したカニサレスをあざ笑うような緩やかな弧を描くボールが左のサイドネットにからまる。ボールがゴールラインを割る瞬間ゴール裏で見ていたサポーターが立ち上がって絶叫しボールがネットに絡まった瞬間スタジアム全体が揺れた。
 「おいおいラウール!魅せてくれるじゃんよ!?」駆け寄ってきたグティとカルストロムに引き倒されさらに祝福にきた仲間に揉みくちゃにされたグラシアだがまだ時間は後半12分であることを忘れていない。「もう1点とってひっくり返しましょう!!」
 ここからまたルゴの猛攻が始まる。グラシアに触発されたカルストロムがグティとの連携で左を崩し、この日手に負えない状態のグラシアは一人で右サイドを何度も切り崩す。中央ではメンディエタがバランスを取りながらも虎視眈々とDFの隙間を狙っている。結局この日、ルゴはスペイン代表GKカニサレスを前に5点を積み上げ5−2で勝ち点3をものにした。終了間際にこの日自身にとって2点目となるゴールを決めたグラシアはスタンドにいたスペイン代表のユニフォームを着た子供を見てつぶやいた。「来週には代表選手だ。絶対に欧州選手権に出るんだ。」そしてグラシアの衝撃的な1週間が始まる。
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