□ 第16回「ニエト一喝」
17節でディポルティーボ・ラ・コルーニャとのダービーマッチに敗れたルゴ。その翌週、3位につけるバレンシアとの大一番に備えて練習にも熱が入っていた。「おらグラシア!抜いてみろ!!」ルゴの誇る左SBのファンフランとミニゲームでマッチアップするグラシア。ファンフランが移籍してきた頃には彼にいいようにあしらわれていたグラシアだがわずか数ヶ月で彼は気を抜いたらあっさり抜き去られる危険なサイドアタッカーに変貌していた。ルゴでの活躍で代表のレギュラーに定着したファンフランもグラシアを代表で見てみたいと願う一人である。
そんな思いが通じたのかスペイン代表監督のイニャキ・サエスは19節と20節の間に行われるフィンランドとのテストマッチにラウール・グラシアを召集することを決めた。サエスは彼を後半くらいから使ってみたいと発言していたが、話題の中心はここではなくフィンランド代表のメンバーであった。28歳になった“征服王”アンティ・キヴィが5年ぶりに代表復帰したのだ。ユーロ出場は叶わなかったフィンランドだがドイツでのW杯を考えて使える選手を見極める必要がある。そこでキヴィがまだ使える選手なのか試そうというのだ。
そんな事情など関係なくルゴではグラシアが代表に呼ばれたことを喜んでいた。今回ルゴから召集されたのはグティ、メンディエタ、ファンフラン、ルケ、そしてグラシアの5人。その他の国の代表も合わせるとかなりの数の選手がチームを離れることになる。特に大変なのがすでにW杯予選を戦っているサラビアである。しかし、そんな中でもパフォーマンスを維持しているサラビアにチームメートの信頼は厚い。ニエトが長期離脱を余儀なくされた今、もっとも頼りになるCBはサラビアなのだ。
18節、ホームに3位バレンシアを迎えたルゴはモチベーションが最高潮のグラシアに引っ張られてグイグイと前に出る。そして代表の常連であるカニサレスに際どいシュートを浴びせ続ける。ルゴはラウト−ルケのコンビではなくポスチガ−カルストロムのコンビを起用した。コンディションがいいカルストロムは左サイドでグティとの連携から果敢にしかけてチャンスを作り、右ではノリノリ状態のグラシアが一人で突破からクロス、シュートまでこなしスペイン代表GKを悩ませていた。しかし、先にチャンスをモノにしたのはバレンシアだった。前半31分、ポスチガのシュートをアジャラがブロックすると大きく弾んだボールはアルベルダの足元へ収まる。アルベルダが高く設定されたルゴのDFラインの前に入ったパブロ・アイマールにボールを通すとアイマールが信じられないほど俊敏な動きでファンフランとスベンソンの守るエリアを突破してゴールに迫る。右サイドから全速力でカバーに来たジャンナコプーロスもかわされてGKゴヤと1対1になるが右に体重を移動しながら右足のアウトフロントでゴヤの足元を抜き一人でゴールを決めてしまった。
「なんだよ?今の…。」呆然とするゴヤだったがまだ前半。気持ちを切り替えねばならない。しかし、気持ちを切り替える間もなくラインのコントロールミスからリカルド・オリベイラに独走され2点目を奪われてしまう。「何やってんだよ!?」中盤で走り回っているグティの怒鳴り声にスベンソンが反応する。「前でコース切れてないからだろうが!」喧嘩になりそうな雰囲気にファンフランとメンディエタが割ってはいる。「喧嘩したいなら試合の後にしろ!」ゴタゴタする選手たちにベンチのサンティも声をかけるが届くはずもない。前半が早く終わるのを祈るばかりであった。
しかし、前半がなかなか終わらなかったことで被害を被ったのはバレンシアだった。グラシアが右サイドを切り崩そうとドリブルを始めるとそれに呼応してジャンナコプーロスがサイドを駆け上がる。そしてDFがジャンナコプーロスを気にした瞬間、グラシアは方向をサイドから中に切り替える。アウレリオとペジェグリーノの間に体を滑り込ませると一気に加速して食い下がるペジェグリーノを振り切りカニサレスと1対1になる。そしてシュートモーションに入るがカニサレスの後ろにアジャラが素早くカバーに入ったのが視界に入ったため足首を切り返してボールをマイナスに入れた。完全に逆を突かれたカニサレスとアジャラが振り返ったところにはフリーでゴール前に侵入したカルストロムが待ち構えていた。右からのクロスを丁寧にゴールに押し込んでルゴは1−2で前半を折り返すことに成功した。
ロッカールームに引き上げるルゴの選手たちは前半途中での言い争いの真っ只中にいた。ルゴのフットボールは中盤とDFラインの連携なくして成立しない。わかっているだけにどちらも譲らない。しかし、そこにグラシアとカルストロムは含まれていない。彼らは前半最後のゴールに盛り上がっていた。「あのカニサレスとアジャラを手玉にとってやったぞ!?」グラシアとカルストロムが少年のようにはしゃぐ。しかし、ロッカールームについた選手たちを待っていたのは鬼の形相のパウロ・ニエトだった。「何やってんだお前ら!?」いきなりニエトに怒鳴られて選手全員が固まった。「あれ?ニエトさん…?」目を丸くして立ち尽くすグティにニエトが怒鳴りつける。「そのキャプテンマークをつけて俺の前で仲間と喧嘩するとはいい度胸だな?そいつはただの飾りか?」我に帰った選手たちを見てサンティがボードに向かう。「後半は最初から勝負に行くぞ!!」
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