□  第13回「サエスの目」

  第14節、ルゴ対レアル・マドリー。シーズンも折り返しを迎え、ルゴは開幕戦で金星を奪ったレアル・マドリーをホームに迎えていた。すでに試合開始から30分が経過している。得点は1−0とホームのルゴがリード。つい先ほどロナウドがルゴのゴールを脅かしたがシュートは枠を逸れた。前節のバルセロナ戦で警告を受けたファンフランが出場停止、それ以外ではグティが体調不良で欠場している。
 カンプ・ノウで見せた攻撃的な一面をグラシアはこの試合でも見せていた。対峙するラウール・ブラボを得意のドリブルで翻弄しルゴの攻撃をリードしていた。おかげでメンディエタは余裕を持って中盤のバランス取りができ、グティの代役のカルストロムもグラシアに触発されてサルガトとやりあっている。ただ、集中力が高まりすぎると先輩への敬意を忘れがちなのがグラシアの困ったところである。
 「メイラ!!早くよこせ!」中盤でベッカムのパスをカットしたメイラに右サイドでスペースを見つけたグラシアが叫ぶ。やれやれ、といった表情でメイラがパスを出すとカンビアッソをかわしてグラシアがまた縦に突破を図る。しかし、ラウトが少し下がってポストに入ったためワン・ツーで中に切り込みシュートを放つ。GKカシージャスに抑えられたものの悪くない攻撃だった。前半を1−0で折り返したルゴ。相手がレアル・マドリーであることを考えれば上々の出来だろう。
 この試合はスペイン代表監督のイニャキ・サエスが見に来ていたためグラシアのモチベーションは高まる一方であった。しかし、後半5分にラウール・ゴンザレスが得たFKをベッカムが右隅に突き刺す。ボールは壁の右端にいたグラシアの頭をかすめていった。枠に行かないと思ったグラシアだったがボールは大きく巻いてネットに突き刺さっていた。このFKを見てグラシアは大きな衝撃を受けた。フリーキックを曲げることは得意なグラシアではあるが精度はまだまだである。“あんなに曲がるボールをコントロールできるなんて…”まさに世界最高クラスのキックだった。
 “あれがイングランド代表のキャプテン…。やっぱりユーロに出たい…!”デビッド・ベッカムの素晴らしいFKを目の当たりにしてグラシアの代表、そしてユーロ出場への思いはさらに高ぶる。そのためにもこの試合でアピールが必要だ。17分、ラウール・ゴンザレスからボールを奪ったサラビアが前線へフィード、カルストロムが競ったこぼれをグラシアがセンターサークルあたりで拾い右から上がってきたメンディエタへ、メンディエタがグラシアにワン・ツーで返す。カンビアッソと競り合いながらグラシアがラウトに出すがエルゲラに寄せられてシュートできない。しかし、グラシアが後ろから、カルストロムが左からフォローに走ってDFをひきつけると右サイドを走り続けていたメンディエタが一歩遅れて走りこみラウトのポストをもらう。しかし、メンディエタのシュートはカシージャスが素晴らしい反応で防ぎ得点に至らない。27分にもチャンスを作り出したルゴだったがラウトのシュートはカシージャスが弾き出した。
 「くそっ!入んねぇ!!」苛立ちを隠せないルゴの選手たちと同様にレアル・マドリーの選手たちも苛立ちを覚えていた。グティのいないルゴ相手に後半途中から攻められっぱなしの状況では苛立つのも当然である。ことごとくニエトにやられているのだ。ラウール・ゴンザレスをスベンソンが、ロナウドをサラビアがマークすることが多いのだがほとんどロナウドにボールが入らない。二人を操るニエトがラインをコントロールし、ロナウドに通ったと思ってもオフサイドをとられるなどマドリーは完全にニエトの術中にはまっていた。時折ジダンが個人技でシュートまで持ち込むものの有効な攻撃の形を作れない。しかし、中盤での激しいプレスで消耗の激しかったグラシアとカルストロムを下げ後半28分にアルテタとトレショクを投入したルゴはその後も決定機を活かせずそのまま1−1の引き分けに持ち込まれてしまった。
 新聞各紙の記者のグラシアへの評価の平均は6.0と平凡なもんだったが試合後のイニャキ・サエスが語ったグラシアへの評価は辛いものだった。「技術的には素晴らしいものがあると思うがフィジカルがまだまだトップレベルには物足りないね。この試合の出来だけで評価するならユーロには連れて行けないだろう…。」
 試合翌日の新聞でサエスがフィジカルの弱さを指摘していたことを知ったグラシア。これで弱気になってしまうのがグラシアの悪いところだ。朝から暗い表情で練習に姿を現すが元気が無い。心配したカルストロムが声をかけるが何をしゃべっても上の空だ。「サエスも黙っててくれりゃいいのにな…。」苦い顔をしながらクラウディオ・サンティ監督がため息をつく。しかし、頼りになる兄貴分のグティが頭を引っぱたきながら渇を入れる。「このくらいで落ち込んでたら代表ではやっていけないぞ!鍛えりゃいいだろうが!走って来い!」…相変わらずグティには頭が上がらないグラシアにサンティも声をかける。「サエスがお前のことについてしゃべったってことは注目してるってことだ。落ち込む必要はないだろう。」頷くグラシアを見てサンティも安心する。「さあ、練習はじめるぞ!」
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