□ 第10回「ルゴ快進撃」
ディポルティーボとのガリシアダービーを1−1で引き分けに持ち込んだルゴ。長年憧れてきたガリシアの2大クラブであるセルタ、ディポルティーボに負けなかったことはルゴに自信を与えた。それと同時に幾つかの課題も見えていた。グラシアはプレーに波が激しく、いいときと悪いときではまるで別人のようになってしまう。今日も練習後に残って汗を流すグラシアであった。相棒はトリスタンにやられまくったフリードリヒである。
グラウンドで汗を流す若者とは別にクラブハウスの選手ラウンジではメンディエタ、グティ、セルジ、ニエトが難しい話をしていた。「このまま若造どもが乗ってくれればヨーロッパ行きも夢じゃないと思うんだが…。」ニエトが落ち着いた口調で話を始める。どうやら今後の戦いについてミーティングしているようだ。「中盤のバロメーターはグラシアだ。あいつが標準のプレーができる日はチームの流れがいい日だ。」グティのこの発言はみなを頷かせる。「あいつが代表レベルにまで成長すれば面白いな。ホアキンか、エチェベリアか…。ガイツカもいるな。」メンディエタを見ながらニエトがにやりと笑う。ルゴに来て復活したメンディエタはバレンシア時代の輝きを取り戻した。中盤のどこでも機能するユーティリティー性はチームにとって貴重な戦力である。今シーズン開幕前にオファーが殺到したのも当然のことだろう。
そのメンディエタの古巣であるバレンシア戦を同じく古巣対決となったサルバの活躍などで3−1と下したルゴはさらにアウェイでランスを下してリーグ首位に躍り出た。まだ始まったばかりだからと言いつつもクラウディオ・サンティ監督も嬉しそうだ。このままシーズン折り返しまで上位に留まれれば欧州カップの出場も現実的なものとなる。世界的な名将になることに野望を燃やすサンティにとって今シーズンはチャンスといえるだろう。
ルゴが波に乗り始めた冬、欧州のサッカーシーンは冬の移籍市場で賑わいだす。ルゴはグティの控えに左利きの攻撃的なMFを、そして右利きのFWを一人補強したがっていた。リストにあがっているのはスウェーデンのU−23のエース格であるキム・カルストロム、アメリカ代表で高さのあるマクブライト、トッテナムのポルトガル人若手のエウデル・ポスチガなどが挙がっている。
スペインではあまり監督の意見は聞かれない傾向にある。フロントが獲ってきた選手を監督が使う。そんな傾向にあるようだ。このルゴでもその傾向が見られる。フロントは監督に希望のタイプは聞くが、実際に交渉して選手を獲ってくるのはフロントである。そのため、時に現場とフロントには対立が生まれそんなところからチームが崩壊することもある。
7節でポルトを下した翌日、移籍市場が開くと各チーム一斉にオファーを送る。ルゴに来たオファーはリーズからメンディエタを獲得したいというものだった。10968Ptsという破格な金額が提示されたがフロントはこれを突っぱねた。チームの軸となっているメンディエタをシーズン中に放出することなど考えられない。メンディエタもフロントがすぐに断る態度を見せたことでチームの自分に対する期待感を感じていた。一方で失望を味わう選手もいるのが移籍市場である。マクブライト獲得を狙っていたルゴのフロントだったが、コロンバス・クルーとの交渉は暗礁に乗り上げてしまう。そこでトッテナムにポスチガの獲得を打診したところトレード要員にFWを付けろという条件が出たのだ。
フロントはトレード要員を久保にするかサルバにするかの選択を迫られた。昨季はD2でスタメンを張ったサルバと、D2カップ優勝の立役者となった久保。どちらも左利きの似たタイプの選手である。フロントは結局、今季まだ無得点の久保をトレード要員に選んだ。久保がそれを告げられたのは8節のベティス戦のためにベティス入りした日だった。来週か再来週には交渉がまとまるという話を聞いた久保はガッカリしながらベティス戦に臨んだ。
ベンチで久保が見つめる中、好調のルゴはアウェイであることなど気にも留めずに敵陣に切り込んでいく。スペイン代表SHのホアキンとU−23のSHグラシアの対決がこの試合の見所であった。まずは22分、ホアキンがスピードでニエトを破るとペナルティー・エリア手前からゴールを狙う。しかし、これはゴヤが抜群の反応で弾き出す。このボールをサラビアが拾うとロングボールを出す。メイラが頭で中継し、ラウトにボールが入る。DFをひきつけたラウトが右から駆け上がるグラシアにパスを通すとグラシアが右足を鋭く振りぬきゴール左隅を狙うが、GKプラッツの伸ばした左手をかすめたボールはポストを叩いた。
37分にもグラシアが右サイドを突破してシュートを放つなどこの日のグラシアは思うようにプレーできていた。グティに言わせれば“今日はチームの流れのいい日”である。前半が終わる頃、圧倒的にボールを支配するのはルゴだった。ベティスは時折パレルモに長いボールが送られるだけで攻撃の形が作れない。
後半になってもルゴの攻撃は続く。何度もベティス陣内に入りボールを回す。右からグラシア、左からグティ、中央からアルテタが崩しにかかるとベティスは自分のゴールを守るのに精一杯でカウンターもままならない。20分にはアルテタがポストを叩くミドルシュートを見せるとベティスの集中力も限界に近づく…。
後半30分、右のグラシアからのサイドチェンジのボールがグティに渡る。縦に突破を図るグティに半歩遅れたホアキンが思わずグティの足を後ろから払ってしまう。そこにセルジが突っ込んできたから大変だ。「てめぇ、なにしやがる!?」そこにラウトも参戦する。「赤だ!赤!」とドイツ語でまくし立てる。当のグティは足を払われたときに右足が軽くツってしまったらしく駆け寄ってきたグラシアに足を伸ばしてもらいながら困った顔をしている。“たいしたことないんだけどなぁ…”「グティさん、すみません。」代表チームで何度も顔を合わせているホアキンはグティに謝ったが主審の出したカードはレッド。ホームでのこのレッドカードにヒートアップしたベティスのサポーターからは大ブーイングが浴びせられる。このブーイングにビビってしまったのはグラシアである。“エル・クラシコ”を戦ってきたグティやセルジにとってはたいしたブーイングでもなかったはずだが、ビビリ症のグラシアには恐怖の瞬間だったに違いない。結局、ルゴは1人多い状況を活かせず0−0のドローに逃げ込まれてしまった。
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